唐突ですが、私はメリル・ストリープよりグレン・クローズが好きです。と、誰に聞かれたわけではないが、まず言っておきたい気分。Netflixのミュージカル映画『ザ・プロム』で歌い踊るメリル・ストリープの揺るぎない実力は大いに認めるが、同じNetflix映画で配信された『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』でのグレン・クローズの役作りを観たら(2作品はまったく作風は異なるが)もう見た目からその演技まで、技巧的に上手いだけなく、そこまでやるか的なユーモアがあって好き好き大好きと思ってしまうのだ。シリアスな役柄であるにもかかわらず、こんなに楽しませてくれるグレン・クローズ73歳。彼女がまだオスカーを獲得していないなんて、本当に信じられない!
グレン・クローズは『危険な情事』(87年)での恐怖のストーカー女の役が強烈すぎたのと、魔法使い顔であるのが相まって、怖いイメージがつきまとう。だが『マーズ・アタック』や『101』でのコメディ演技から、2019年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた(アカデミー賞のノミネートは、実に7回目!)『天才作家の妻40年目の真実』での正統的演技派ぶりを見るにつけ、つくづく幅の広い役者だと思う。
おまけに舞台女優として、ブロードウェイでは『サンセット大通り』でトニー賞のミュージカル主演女優賞を3度受賞しているのだ。これだけのキャリアを誇りながら、今作の『ヒルビリー・エレジー〜』では貧困層に生きる実在した老女を怯むことなくリアルに演じて、またしても俳優として新たな一面を見せてくれた。
彼女の見た目の役作りが実際の人物に似せたとはいえ、パーマがかかった巨大ヘア、シミ&そばかすが浮きまくった顔面にはトンボめがね、お相撲さんがきているようなダブダブのTシャツがすんなり馴染みすぎ!このルックスだけでも、インパクトあり!決して柄がいいとはいえない、いわゆるホワイトプアのおばあちゃんではあるが、孫のためには命懸けで守り育てる気骨を持っているのだ。麻薬依存症の娘、未来ある孫、そして容赦ない現実。グレン・クローズ演じる祖母の心のありよう、その演技を堪能した。