「ウィル・スミスの妻」ではなく「女性のリーダー」、ジェイダ・ピンケット・スミス【辰巳JUNKのセレブリティ・カルチャー】

「ジェイダは自分でやれる」

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2022年前半、もっとも話題になったセレブリティ騒動とは、ウィル・スミス(53)平手打ち事件だろう。アカデミー賞授賞式中、妻ジェイダ・ピンケット・スミス(50)のバズカット(坊主頭)をネタにしたコメディアン、クリス・ロック(57)に怒ったウィルが、舞台上にあがって彼を叩いた事件である。クリスは知らなかったとされるが、ジェイダは脱毛症を告白していた。

ウィルは早くに謝罪したものの、黒人男性スター同士の事件は、膨大な議論を呼び起こした。どちらが悪いかで意見がわれた上、人種やユーモア表現など、トピックが多かったためだろう。そのうちの一つにジェンダー問題がある。騒動早々に共有されたのは「ジェイダは自分でやれる」という意見。ジョークに対してどう対応するか決めるのは、夫ではなく、直接の対象であったジェイダ自身、ということだ。日本でも共有された論だが、現地とのギャップがあるなら、ジェイダその人のイメージではないか。先の意見を発したニュース番組『モーニング・ジョー』の司会、ミカ・ブルゼジンスキー(54)のコメントは、このようなものだった。

「ジェイダ・ピンケット・スミスは、私が出会ったなかで最も勇気をくれる、女性を支援している人物です。彼女は強く美しく、たくさんの脆弱な物語をトーク番組『Red Table Talk』で共有しています。家族とも協力して、問題に取り組んでいる。前人未到の地点にいる、勇敢な女性なのです。ジェイダは、自分のことは自分でやれる」

日本では「ウィル・スミスの妻」の印象が強いジェイダだが、アメリカでは、賛否を呼びながらも尊敬を集める「女性のリーダー」でもあるのだ。

21エミー賞に輝くディープなトーク番組

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(現在、母エイドリアンは68歳、ジェイダは50歳、娘ウィローは21歳)


1971年アメリカに生まれたジェイダは、映画『マトリックス』シリーズ等で知られる俳優である。音楽ファンのあいだでは、伝説的ラッパー、2パックのソウルメイトとしても有名だが、メタルロックバンドのボーカルとしても活動していた。3歳年上のウィルとは1997年に結婚。ジェイデン(23)、ウィロー(21)という2人の子どもも今では人気ミュージシャンである。

50歳となった今、本腰を入れているのは、制作、司会をつとめるトーク番組『Red Table Talk』(以下、『RTT』)である。エミー賞も獲得した人気シリーズで、配信媒体Facebookのフォロワー数は1,100万、またInstagramでは294万を超えている。

自身と母と娘、三代の黒人女性で回すこの番組は、著名人や専門家、犯罪事件の関係者などのゲストを迎えながら、メンタルヘルスや人種、ジェンダーにまつわるディープな議論を展開していく。大物歌手Rケリー(55)に虐待された被害者女性を継続的に支援したり、カーダシアン・ジェンナー家浮気騒動の関係者として世間から大バッシングされた黒人女子に説明の場を与えるなど、方方で影響力が大きい。近ごろでは、人気歌手ジャネール・モネイ(36)がノンバイナリーをカムアウトしたのもこの番組だ。


「悪妻」? 婚外恋愛の衝撃


(ウィルと婚外恋愛騒動について夫婦で語った回は、24時間で1,540万再生数を記録)

『RTT』では、ピンケット・スミス家の家庭問題も多く語られる。大きな話題を呼ぶのは、映画スターであるウィルとの夫婦関係だ。じつは、この2人には、10年ものあいだ「オープン・リレーションシップ(この場合、婚外恋愛を許容する婚姻関係)」の噂がつきまとってきた。若手歌手オーガスト・アルシーナ(29)がジェイダとの婚外恋愛を暴露した2020年には注目が一気に加熱。『RTT』で対談もしたウィルとジェイダ2人の弁明としては「夫婦関係に問題を抱えて一時期別れていたが、今は復縁し、互いの自由を尊重しながら無条件に支え合う最高の愛情関係に行き着いた」、といったところ。

一夫一妻制から逸脱するようなスター夫婦は、当然ながら賛否両論を呼んだ。アカデミー賞キャンペーンと自伝本リリースによってウィルの露出も増えた2021年末には「(2人揃って不快な家庭の話をつづける)スミス夫婦へのインタビューを禁止しろ」と主張する2万5千もの署名が集められた。余波はアカデミー賞にも及んでしまう。まず、女性司会者から「あなたが浮気してもジェイダは気にしないでしょ」というニュアンスで壇上にあがるよう誘われたウィルが頑なに拒否する一幕があった。その後、今度はクリス・ロックがジェイダを標的にした際、平手打ち事件が起こったのである。

騒動後には、ウィルやクリスのみならず、ジェイダにもバッシングが集まった。お互い婚外交渉の経験がある旨を明かしてはいるものの、ウィルは哀れな「寝取られ男」、ジェイダは夫を痛めつける「悪妻」といった揶揄や非難の声は増すばかりだ。特に『RTT』での発言の一部を切り取ったビデオが炎上の種になっている。

「勇敢な女性」の願い

なぜ、ジェイダは誤解されやすく荒れやすい番組方針をつづけているのか。当人が念頭に置くのは「強き黒人女性」問題だ。常日頃から侮辱や軽視を受けることが多い米国の黒人女性たちは、そうした攻撃にも毅然と対応する「強い像」を身に着けがちとされる。ジェイダは、率先して複雑な問題を明かしながら『RTT』を「(主に黒人の)女性たちが安心して弱音と本音を語り、発信できる場所」にしようとしているのだ。こうした活動こそ、前出ブルゼジンスキーが「前人未到の地点にいる、勇敢な女性」と讃えた背景にあるものだ。

「ジェイダは、自分のことは自分でやれる」。この言葉は、当人が表明してきたスタンスでもある。たとえば、婚外恋愛を暴露した歌手の「ウィルが不倫を許可していた」主張を否定した際、こうつけ加えている。「あぁした特殊な状況で、私に許可を与えられるのは、私だけ」。

元々、家族のキャリアを支え続けていた彼女は、40歳ごろ希死念慮を抱くほどの精神的危機にぶつかっていたという。そこで、一旦他者を脇において「ジェイダ個人として、なにをしたい?」と自問する習慣をつけたところ、精神的独立に至り、夫婦関係も改善したそうだ。そして、50代を前に始めた「自分自身がやりたいこと」こそ『RTT』だった。今後、平手打ち事件がどう展開していくかはわからない。ただ、どうなろうと、ジェイダ・ピンケット・スミスは、自分のことは自分でやっていくだろう。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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