【ジェナ・オルテガ】アイドルから「血まみれ」ホラーへ。『 ウェンズデー 』ジェナのZ世代流キャリア 【辰巳JUNKのセレブリティ・カルチャー】

ジェナ・オルテガはZ世代のゴス・クイーンになった。というのも、主演ドラマ『ウェンズデー』がNetflix英語作品として史上最高の週間視聴者を達成するメガヒットを記録したのだ。

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異能力者がつどう学園を舞台にした『アダムス・ファミリー』スピンオフは、ティム・バートン監督版『ハリー・ポッター』のごときゴシック世界観が売り。ジェナ演じるウェンズデーは、個性豊かな学校でも浮いている残酷趣味で皮肉屋な転校生。身にまとうのは、パーカーなどのロウフル生活感をとりいれたZ世代版ゴス・ファッションだ。配信されるやいなや、世界中のティーンのあいだで真似されたことは言うまでもない。

ディズニーからホラーへ

2002年カリフォルニアのラテン系地区に生まれたジェナ・オルテガにとって、ウェンズデー役は天命みたいなものだった。というのも、小さなころからドライなユーモアを好み、死んだ生き物を解剖する「変わった子」だったため、たびたび「ウェンズデーみたい」と言われてきたのだという。

Z世代のゴス・クイーンは、元々、Z世代のホラー・クイーンだった。サッカーに人生を捧げようとした瞬間もあったというが、現在20歳の彼女は、人生の半分を演技についやした

子役出身者である。注目のきっかけは、11歳のとき出演した人気ドラマ『ジェーン・ザ・ヴァージン』、そして主演ディズニードラマ『ハーレーはド真ん中』。しかし、キャリア初期の出演映画が人気ホラーシリーズ『インシディアス 第2章』だったことは予言的だった。10代後半になった彼女に「Z世代スター」の称号を授けたのは、人気シリーズ『スクリーム』やアート作風『X エックス』といったホラー映画なのだ。

「映画館の救世主」となったホラー

クリーンなディズニー・アイドルからホラー映画のアイコンになるとは「変わった」キャリアだが、実のところ、非常にZ世代的だ。たとえば、同ジャンルに立て続けに出演してきたジェナ本人は、このように語っている。

「ホラー映画の価値のひとつは、映画館を延命させていることです。今、人々に映画館へ向かう動機を与えているジャンルは、スーパーヒーローとホラーではないでしょうか」

「低俗」とあなどられることも多かったホラー映画だが、今ではすっかり「映画館の救世主」となっている。ストリーミングが普及した現在、コアな映画ファンでもない人々に「映画館に足を運ぶ価値がある」と思わせるには「集団イベント的な楽しさ」が必要である。ホラーの場合、若者が友達と体験する「肝試し」行事にうってつけだ。製作費が安く済む費用対効果も「救世主」たるゆえん。2022年、ジェナが出演した『X エックス』の世界興行収入は、製作費の約15倍とされる。一方、大予算のスーパーヒーロー映画『ソー:ラブ&サンダー』は3倍にとどまる(すべて2022年12月27日現在)。若年層を中心にここまでの大ジャンルになったのだから、Z世代アイドルがホラー・アイコンというのは、ごく自然な事象だ。なにより、Z世代のホラー・クイーンは、ジャンルの自由を愛している。

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『ウェンズデー』とホラーの関係

「アドレナリンが出て、ジェットコースターのように展開していく。ホラーというジャンルは、巨大で、さまざまなジャンルの集合体です。ホラー、アクション、コメディ、ドラマ、ロマンス……これらを一気に味わえるのがホラー映画なんです。俳優としては、素晴らしい経験ができる」

ホラー映画の経験は『ウェンズデー』に生きている。まず、このドラマ自体も、ホラー美学が色濃いゴシック世界観であり、ジャンルがごちゃ混ぜだ。学園ドラマでありながら、ミステリ、ロマンス、コメディ、アクション、ファミリー要素もあるからこそ、幅広い年齢層に届いた。そして、ホラー撮影の現場で「血をあびるのが大好き」だというジェナは、今作でも大量の血をあびている。

ただし、これまで演じてきたホラーのキャラクターと比べると、ウェンズデーは異質だという。本人いわく、ホラーの女子は、危険な場所で「誰かいますか?」と声をあげるような愚かしい行動に出る。一方、弟をイジめた生徒がつかるプールにピラニアを放って転校するはめになるウェンズデーは、敵に対して危険なトラップをしかける側である。

たぶん、ジェナ・オルテガに近いのは、ホラー女子よりウェンズデーだ。ディズニー・アイドルからホラー・クイーンの道を進んだ彼女は、人から怪訝に見られようと「好きなもの」を貫いてきた。ウェンズデーと同じく古典文学にくわしい彼女の人生ベストは、哲学者ラルフ・ワルド・エマーソンによる『自己信頼』。この本の一説は『ウェンズデー』の物語とジェナ・オルデガのキャリア、両方の魂を指し示している。

「自分らしくあれ。模範者になってはいけない。最高に自分らしくいれば、人よりも得意なことが見つかるだろう」

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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