クリント・イーストウッド #8

「アハハ、別に僕は怖い女性に取り憑かれているわけじゃないよ。確かに『白い肌の異常な夜』('71)も、初監督した『恐怖のメロディ』('71)も女性の怖さが描かれているけれど、僕みたいに大きな図体の男が女性を相手にオロオロする姿が面白いと思ってね(笑)」

自分でも「大きな図体」と言うように、190㎝を越える長身をすくめる姿が何ともチャーミングだったクリント・イーストウッド。こちらが、タイン・デイリー扮する中年の女刑事とハリー・キャナハン刑事の絆が胸を打つ『ダーティーハリー3』('76)に感動したと告げると、「結局、ストーリーがどれだけ魅力的かということなんだよ。そこに一番ふさわしい役者がキャスティングされたら、その映画がうまくいかないわけはないよ」

「僕がもう少し若かったら、主人公の機長サリーを演じたかも・・・・・・いや、それはないか(笑)」

イーストウッドが主役をトム・ハンクスに託し、監督に専念した最新作が『ハドソン川の奇跡』。155名の乗客乗員を運ぶ旅客機が、不慮の事故でNYのハドソン川への不時着を余儀なくされる実話の映画化だ。

「もし川に不時着させられなかったら、マンハッタンの超高層ビルに突っ込んでいたとしても不思議じゃない。そんな悪夢をサリー機長が見るシーンだけは、僕が脚本に付け加えたものだよ。観客の“これは何についての映画だろう?“という思いに応えられるようにね」

伝説のジャズミュージシャンについての映画を監督したり、自分の監督映画用に音楽を作曲してしまうなど、音楽への造形が深いことでも知られるイーストウッド。

「『ハドソン川の奇跡』でもメイン・テーマは僕が作曲した。もちろんそれをアレンジしてくれたのは他の音楽家だけども」

ミュージカルの映画化『ジャージー・ボーイズ』('14)のセットでは、照明の準備中などにピアノの前に座り『ミスティック・リバー』('03)のメロディを奏でていたという。

「撮影しているうちに、頭の中に音楽も浮かんで来るんだ。僕の場合、映像と音楽は一緒なんだよ」

残念ながらアメリカでは評価も興行収入も今イチだった『ジャージー・ボーイズ』が、日本では世界で最も歴史のある映画誌『キネマ旬報』を始め、各映画賞に輝いたと告げると、「知っているよ(笑)」と嬉しそうな笑顔を見せる。

「これだけ映画を撮っていると評価もいろいろ違うけど、毎回新しいことに挑戦していきたいんだ。『ハドソン川の奇跡』だって、本物の飛行機(エアバス)を一機購入して、湖をハドソン川に見立てて川面に浮かんでいるシーンなどを撮影したし。僕が映画作りに飽きることはないだろうな」

86歳、恐るべし!

『ハドソン川の奇跡』9月24日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他 全国ロードショー  ©2016 Warner Bros.All Rights Reserved

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ジャーナリスト佐藤友紀プロフィール画像
ジャーナリスト佐藤友紀

映画や舞台、ダンスに造詣が深く、独自の視点で鋭く切り込むインタビューに定評が。ジョニー・デップから指名されることも多々。