ブラッド・ピット #9

『カリフォルニア』より ©Everett Collection/amanaimages

ブラッド・ピットには、その後幻となったインタビューをしたことがある。場所はロンドン。アニメ映画『シンドバッド 7つの海の伝説』('03)の声優をつとめたということで、未完成の色も着いてなければ所どころデッサンのみの映像を見て、インタビューに臨んだが、映画のオープニング、空からバグダッドの街に落ちていくシーンが当時渦中にあったイラク空爆を連想させてなんかイヤだなと思ったら、映画そのものが公開中止になってしまった。

ただその時、「新作は、『Mr.&Mrs.スミス』('05)でニコール・キッドマン(後に、アンジェリーナ・ジョリーにキャスト変更)と共演できるのが待ち遠しいよ」と言っていた彼。運命なんて本当わからないものですね。

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『エリザベス』('98)のケイト・ブランシェット、『タイガーランド』('00)のコリン・ファレル、『チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼』('00)のアンドリュー・ドミニク監督とエリック・バナなど、ブラッド・ピットが誰よりも早く才能を認め、筆者に教えてくれた人リストだ。前妻ジェニファー・アニストンも「ブラッドは常に映画を観てる」と証言するぐらいシネフィルの彼。それ故に、「自分には監督の才能なんてないから演技とせいぜいプロデュースに専念するよ」と話していたが「あまり映画は観ない」と言っていたアンジーとはやっぱり映画に対する姿勢が違っていて、それも今回の離婚騒動の遠因?

演技を超えてブラッド・ピットがこちらをゾクッとさせた瞬間というと『カリフォルニア』('93)での、ジュリエット・ルイスとセックスの最中、覗かれているのを意識した上でカメラに向かってニヤッと笑ったシーンだろう。

この作品、でっぷり太って放屁をしたり、人を殺しまくったり、でも彼は「間違いなくターニングポイントになった。『カリフォルニア』をやったことで、自分が望むものはためらいなくやってみる勇気が生まれた」とハッキリ。未見の方は、ぜひ!

あるインタビューの際、当方が着用していた、「film lover」と書かれたTシャツを、目ざとく見つけ、「それ、どこで手に入れたの?」と。ベネチア映画祭で買ったもので、彼らなら1億枚は購入できるはずなのに、根っからの映画好きらしい反応だった。実際、『ザ・メキシカン』('01)でも『スパイ・ゲーム』('01)でも他の映画の時も、映画が入り口だったらどんな質問にも能弁に答えてくれたばかりか、「今回のカンヌでは何が一番面白かった?」と逆に情報収集に余念がない。新作『マリアンヌ』('16)で共演している、マリオン・コティアールとの恋の噂だって、もしかしたら映画の話がきっかけで盛り上がったのかも。

ジャーナリスト佐藤友紀プロフィール画像
ジャーナリスト佐藤友紀

映画や舞台、ダンスに造詣が深く、独自の視点で鋭く切り込むインタビューに定評が。ジョニー・デップから指名されることも多々。