天海祐希や大泉洋など出演者全員が小学4年生を演じて大評判だった三谷幸喜作・演出の『子供の事情』。この中で、吉田羊が演じる女の子のアダ名が“ホリさん”というのは笑ってしまった。名付け親は、林遣都が演じる少年時代の三谷その人で「横顔が『ティファニーで朝食を』('61)のヒロイン、ホリー・ゴライトリーを演じたオードリー・ヘップバーンに似ているから」。さすが無類の映画好きなだけある。ところが原作『ティファニーで朝食を』の翻訳者・龍口直太郎氏によると、「作者トルーマン・カポーティはオードリーが気に入らなかったんだよ」とのこと。理由は?「娼婦という職業が全く信じられないから」って。龍口先生ご本人から聞きました。でも、だからこそ、どこにもないお伽噺のような映画になったんだろうけど。
もっともオードリー本人も“女優”という職業にはいろいろ思うところもあったようだ。ジェーン・バーキン、アンジェリーナ・ジョリー、ナタリー・ポートマンなど彼女に憧れた人たちは皆、晩年の「ユニセフ活動への熱心な取り組みを尊敬して」のようだし。ジェラルディン・チャップリンのように「女優ヘップバーンに憧れる。ただしオードリーではなくキャサリンの方」とハッキリ言ってのけた人もいる。そんな中で、長男ショーンの「母の出演作品の中で最も好きなのは『尼僧物語』('59)」という発言は重い。実はオードリー本人もそうだったようだし、筆者も同意見なのだが、社会派監督フレッド・ジンネマンによるこの還俗してレジスタンス運動に身を投じるヒロイン像を描いた作品、オードリーの実人生と驚くほど重なるのだ。地味だけど、オードリーの女優としての底力が見られる一作!
「通っていたロンドンのバレエ学校に、ある日物凄く可愛い女の子が入ってきたの。少し年上だったけど、私たち生徒は大騒ぎしてその子を見に行ったわ(笑)」と教えてくれたのは『ジュリア』('77)などの名女優ヴァネッサ・レッドグレイヴ。オードリーの母違いのお兄さんという人が一時日本で働いていて、「オードリーさん(日本語で)は僕たちとは違いますから」とインタビューに応えていたっけ。「住んでいたのがお互いスイスの村で面識もあった。自分が敬愛する女性が亡くなったら、棺をかつぎたいと思うのは当然だろう」と、実際オードリーの葬儀でかつぎ手の一人となったアラン・ドロン。『いつも2人で』('67)で共演したジャクリーン・ビセットは「オードリーはアメリカに家を持っていなかったから、アメリカに来た時はうちに泊まっていたのよ(笑)」と意外なエピソードを教えてくれた。
スター女優とハイブランドのデザイナーの密接な関係というと、真っ先にオードリーとジバンシィの名前が挙がるほど。2人共長身で、プライベートな仲を噂されたことも一度や二度ではない。もっとも、何を着ても彼女が自分のテイストにしてしまうのは映画の中でもおなじみなこと。大きなまつ毛が描かれたアイマスクやサブリナパンツとも好相性のフラットシューズなど、現代でも定番となっているアイテムは数限りない。そんなおしゃれ強者のオードリーが見せたファッションの中で、「う〜ん、それはちょっと…」と評された珍しいものがいくつか。一つ目は『いつも2人で』で見せた水着姿で、「いくら何でもやせすぎ、メリハリなさすぎ」。二つ目はイタリア人医師との再婚時に見せたミニのウェディング姿で「スカーフが森の小人みたい」とか。もちろん逆の意見も多いけど、こういうのもなかなかおかしかったな。
映画や舞台、ダンスに造詣が深く、独自の視点で鋭く切り込むインタビューに定評が。ジョニー・デップから指名されることも多々。