スターと呼ばれる人が悪役を演じるのは、近年さほど珍しいことでもないが、『パティントン2』でヒュー・グラントが演じているのが、落ち目の俳優でパディントンを罠にはめる五十男ブキャナンとなると「さすが」と感心するしかない。ヒューは、かつてアメリカで売春婦を買って警察のやっかいになったり、長年付き合っていたエリザベス・ハーレイにつきまとうパパラッチを殴って問題になったりで私生活もにぎやかしいが、英国式ユーモアの達人でメディアからの人気も高い。最近の十八番は、今や親友となったエリザベスをおちょくるネタ。「僕の知っている限り、親トランプでEU脱退賛成はエリザベスぐらいだよ」と。でも、彼女もそれを否定していないのが凄いんだけど。
ウォーレン・ベイティやジョージ・クルーニーに対抗したわけではないだろうけど、ちっとも結婚する様子が見られなかったヒューは、51歳でいきなり父親になったと思ったら、続けて4人の子どもをもうけた。しかも2人の女性との間で。1人は中国系女優でもう1人はスウェーデン系のTVプロデューサー。で、思い出したことがある。以前、いろんな国のジャーナリストに囲まれてのインタビューの際、1人残って「一緒に写真撮ってもいい?」と頼んだ北欧系の美女に対して「他のジャーナリストも君みたいだったら良かったのになあ」と問題発言。録音機材を片付けていた著者とチリかどこかの女性だけがそれを聞いていて、思わず目を見開いてしまった。LA在住のジャーナリスト、中島由紀子さんによると「ヒュー独特のジョークよ」。本当かあ⁉
ものすごく気をつかいまくるヒュー。想像できる? あの松田聖子さんが彼の大ファンだというので、2人の対談を企画したら、聖子ちゃん、ホステス役はあまりやったことがないようで、せっかくのチャンスなのにあまり質問もしていない。そのうち、ゲストのヒューの方からどんどん話を振ってくれて、楽しい時間になったというエピソード。やはりいざとなったら英国紳士なんだね。「そうだよ。だから僕もコリン(・ファース)もアクション・スターみたいなケンカなんかしたことないから。『ブリジット・ジョーンズの日記』(’01)のお嬢ちゃんの取っ組み合いみたいなのはむしろリアルなのさ(笑)」一時噂されていた007役は、むしろ無理だった⁉
ロマンチック・コメディの分野でもコメディ寄りの作品で冴えを見せてきたヒュー。『フォー・ウェディング』(’94)『ノッティングヒルの恋人』(’99)『アバウト・ア・ボーイ』(’02)と演技賞を取沙汰されたのは全部そっち系だ。「自分自身そういう作品が好きだし、不満はないよ。もっとも、主役じゃなくても『日の名残り』(’93)のような作品にかかわれるのは、やはりうれしいけれど」。確かに、『幻の城 バイロンとシェリー』(’88)では英国の大詩人バイロン卿も演じているし、もともとオックスフォード出身の秀才だもの。カズオ・イシグロ以外の文芸物も似合いそうだ。
映画や舞台、ダンスに造詣が深く、独自の視点で鋭く切り込むインタビューに定評が。ジョニー・デップから指名されることも多々。