LVMHプライズ、ドーバーストリートマーケットのラインナップなどを見ても分かるように、最近のロンドンファッションウィーク(LFW)はアップカミングブランドの宝庫だ。その代表格は、J.W.アンダーソン。もちろん彼はアップカミングというより、もはや“あがり”のブランドだが、この数年での快進撃は言わずもがなで、目を見張るものがある。
そして、そのほかロンドン勢もしかり。モリー・ゴダード、シモーヌ・ロシャ、アーデム、マルケス・アルメイダ、メアリー・カトランズ、アウェイク…。ラインナップを見ているだけで「ショーを見るの楽しみ!」とわくわくするブランドが、短い期間中に目白押し。都市ごとにコレクションはカラーがあるけれど、ロンドンは簡単に言うと、際立って”かわいい”。それも『SPUR』らしいエッジとイノセンスを兼ね備えた”かわいい”がある。「何でこんなにかわいい?」の答えを探して、最新ロンドンコレクションをリポート!
まず、「ガーリー」なカテゴリーでは右に並ぶものがいない、シモーヌ・ロシャとモリー・ゴダード。いつも彼女たちの好きな女性像はあまりに明確だ。シモーヌは花やリボン、ピンク色、モリーはチュールのドレス、という具合に。が、ショーはその単純なイメージを超えた素晴らしさだった。
特にシモーヌ・ロシャは、観客が皆フロントロウになるように座席が配されていたので、彼女の美意識に説得力を与える、贅沢な素材使いが間近で感じられた。部屋着のようなデザインなのに輝くように滑らかなシルクドレスや、ヴィクトリアンスタイルのレース、フリル、パールなど。
そしてフラジャイルなドレスの数々を見た最後のダメ押しは、フィナーレで流れた、スキータ・デイヴィスの「この世の果てまで」。完璧なロマンティシズムとセンチメンタリズムの演出が、彼女のクリエーションがただの「かわいい」とはいまや違うところにある、と高らかに宣言しているように見えた。
また、モリーも今季は、得意とするチュールのAラインドレスのスタイルをアップデートして、輝くスパンコールやサテンの素材使い、テーラリングなどグラムなエレガンスを盛り込んだスタイルに。夢見る少女が大人へと成長するような、そんなブランド自体の成熟度を見せるルックを展開した。
そして、今やLFWに行くなら見ずには帰れない、J.W.アンダーソン。新しいサンクチュアリを描こうとした新作は、素材使いの斬新さ、色使いのモダンさ、カッティングの独自性、とどれもコンテンポラリーアートのようでありながら、「かわいい」と表現したくなる距離感の近さが魅力だ。荒いリネンやリラクシングなラフィアのセットアップなど、彼らしいオーガニックな軽やかさも春夏コレクションの中で光っていた。
強い女性を描こうとしたというヌードなスキントーンのメイクアップは、下まぶたにだけ入れた黒のアイラインがアクセントに。優しいだけではなく、芯の通った女性像を表現していた。
ベテラン勢のガールズパワーも見逃せない。アニヤ・ハインドマーチの招待状は今回も趣向が凝らされており、届いたのはなんと石鹸。イギリスでは誰もが知る(牛乳石鹸的な?)ブランド「インペリアルレザー」の石鹸がデザインそのままに「アニヤレザー」とデザインされてインビテーションの中に。
ノスタルジアがテーマかと思いきや、会場には大きな家が組まれており、アナグリプタ社の壁紙を模した模様がグラフィカルに配され、インスピレーションは、太った車の彫刻でおなじみのアーウィン・ワーム。バッグもラグジュアリーなナッパレザーのボストンがむくむくと太ったり、愛嬌たっぷりの巨大猫プリントトートが登場したり。チャーミングな仕掛けの数々で魅了した。プレイフルな色合いのウェアもスポーツミックススタイルがフレッシュで、今後の展開に期待。
そして、安定のブリットモードを見せてくれたのは、マーガレット・ハウエル。シックなモノトーンとベージュのカラーリングをモダンなガーリースタイルに昇華した。
ロンドンでは「See Now Buy Now」の展開も相変わらず好調のようで、2017セプテンバーコレクションを発表したバーバリーは、発売当日、リージェントストリートのお店の前に行列ができていたとか。翌日お店に行ったところ、アウター類などはすでに品薄になっているという勢い。英国らしい要素を様々な角度からアイテムにちりばめつつ、リアリティあるスタイリングでブラッシュアップしたコレクションは、伝統とフレッシュなモードの美しいフュージョンで観客のハートをつかんだ。
また、マザー・オブ・パールも、朝食をサーブされながら見る優雅でロマンティックな秋冬コレクションを発表。フォトグラファー、ラリー・サルタンのレーガン時代のアメリカの家の写真集から着想したショーは、どこか懐かしいカーテンのようなジャカードや、クッション型のバッグなど愛らしくエレガントなスタイルで、今の気分にもフィットする提案をした。
ロンドンのガーリー路線とはまた別のベクトルで、ファッションウィークを盛り上げる外国勢が多かったのも、今回のロンドンコレクションの特徴。ガリアーノの就任以来、ロンドンで発表されているエムエム6 メゾン マルジェラのプレゼンテーションは、「open to everyone」をテーマに、ショーウィンドウから道行く人ものぞけるスタイルで行われた。壁一面にグラフィティが書き込まれたポップな会場内では、ルックブック撮影が敢行され、その様子までオープンに。コンセプトを会場全体で表現した。
また、日本からはトーガも参戦。エッジの効いたアイテムを、テーラリングを生かしていつもよりシックにまとめることで新しい一面をみせた。
そして、ボンドストリートのリニューアルオープンを記念してショーを開いたのは、エンポリオ・アルマーニ。ドリーミーなカラーリングとポップなモチーフ使いが、フレッシュにブランドを印象づけた。
最後にLFWの最終夜を打ち上げ花火のように飾ったのが、NYからやってきたトミー・ヒルフィガー。「ロックサーカス」と銘打って、一夜限りのサーカス小屋をカムデンに出現させた。ジジ・ハディドがオープニングを飾り、オンタイムで買える秋冬コレクションを発表。ロンドンの夜を盛り上げた。
EDITOR'S MEMO
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ロンドンの食事情がますます進化している! お買い物より何を食べるか。グルメなファッションピープルたちは、ディナーの予約に余念なし。今回は、定番にして最愛のセント・ジョンに加えて、人生初のジョージア料理も体験。小籠包からビーフシチューまで揃う、美味しい折衷主義を堪能した。
- 主要4都市コレクションの中で、LFWの正確さに感動。初日にほとんどのインビテーションが届いているし、前日にすべてのショーの場所をポイントしたグーグルマップの配信も(そんな都市、他にない)。しかもショーの開始が大幅に遅れることもほとんどなく、ミラノやパリの30分待ちなんてありえないレベル。NYはアナ・ウィンターが席についたら開始、なんて暗黙のルールがあるという噂もあるけれど、それにしてもイギリス人の真面目さを感じたファッションウィークだった。