2022.03.07

【2022AW NYコレクション放談・前編】現地ジャーナリストに聞いた、NYの最新ファッションを知るための3つのキーワード

先月開催された2022年秋冬NYコレクション。パンデミックの影響は未だ色濃く、スタッフの感染によりキャンセルを余儀なくされたトム・フォードのほか、デジタル配信を選択するブランドがいくつかあったものの、ファッションウィークのスタート前日にはマスク着用義務が撤廃。多くのブランドが対面式でのショーを開催しました。SPURでは現地在住のジャーナリスト森さんに電話取材を敢行。ファッションウィーク中のムードから注目すべきデザイナーまでアレコレ聞いてみました!

ナイトアウトへの欲望を解き放つ、ドレスアップウェア

SPUR編集部(以下、S):ファッションウィークの盛り上がりはいかがでしたか?

森さん(以下、M):全体的にすごくスローな印象でした。フィジカルのショーは増えていますがマイケル・コースやトリー・バーチなどかなり人数制限をしているブランドもあり、小さな規模のものが多かったですね。少しずつムードは戻りつつあるものの、パンデミック前同様の盛り上がりにはまだ遠い状況です。

S:なかなか終わらない自粛ムードを打破したい気持ちの高ぶりか、ランウェイにはナイトアウトに出かけたくなるような煌びやかな衣装が目立ちました。

M:確かにアナスイやマイケル・コースをはじめ、ドレスアップウェアを提案しているブランドがとても多かったですね。秋冬コレクションにも関わらずカットアウトやスリットなどで肌見せするアイテムが目立っていたのも特徴的でした。

(左)Photos courtesy of brand、(右)Photos by iMAXTREE/AFLO
(左)ANNA-SUI Photos courtesy of brand、(右)MICHAEL KORS COLLECTION Photos by iMAXTREE/AFLO

S:アナスイはデジタル配信でしたが60年代のイギリスとのテレビ番組「Ready Steady Go!」に着想を得たコレクションを発表。ロックバンドのライブ会場のような舞台でモッズな服に身を包んだモデルたちが踊る姿が可愛かったです!

 M:モッズなテイストの中に彼女の愛する20年代のアールデコ要素や80年代風のバルキーなニットも取り入れたスタイル。アナが語っていた「難しいことは考えずに、好きな服を着て遊びに出かけよう!」というメッセージの通り、ポップで愛らしい世界観は心躍りました。

S:マイケル・コースも夜の街がテーマに。マンハッタンにある音楽会場を舞台にグラミー賞受賞アーティストであるミゲルのパフォーマンスも交えながらショーが展開されました。

M:お得意の端正なテーラードスタイルにミニドレスをミックスしたり、カットアウトでウエストを露出したドレスだったり、エキサイティングなムードでしたね。秋冬コレクションに限らず、ブティック関係者に聞くと今のNYでは普段着よりもドレスアップするための服がよく売れているそう。気軽にクラブに出かけるのはまだ難しい状況ですが、レストランでディナーを楽しむ人たちは増えているのでそのための服を求めているのでしょう。反対にここ数年人気だったジャージやスウェットは、今は街でもあまり見かけませんね。

モダンにアップデートされた、テーラード

S:ホームウェアに飽き飽きしているのかもしれないですね。脱カジュアルな流れとしては、テーラーリングのアイテムも多かったように感じます。スーツやテーラードジャケットをベースとしながらも、シルエットやディテールがちょっと凝っているような。

M:NYはもともと都会的でエレガントなスタイルを得意とするブランドが多いのですが、それをエフォートレスに仕上げたスタイルは今シーズンならでは。初日にショーを開催したプロエンザ スクーラーもそうでした。彼らはデビューの際に「シルエットが新鮮に見えることを大事にして服作りをしていたい」と語っていましたが、バルーンシルエットのスカートやピークトラペルを採用したジャケットなどが素敵でした。20周年を迎える節目のタイミングで、自分たちがやりたいことをしっかりとアピールしていたのではないでしょうか。

(左)Photos by iMAXTREE/AFLO、(右)Photos courtesy of brand
(左)PROENZA SCHOULER Photos by iMAXTREE/AFLO、(右)Maryam Nassir Zadeh Photos courtesy of brand

S:個人的にはマリアム ナッシアー ザデーも好きでした。テーラードジャケットにブラトップやオーガンジーのスカートを合わせていて、今っぽいけど行き過ぎた感じがなく、シックで洗練されていました。

M:マリアムはヴィンテージの要素をうまく取り入れていましたね。今のニューヨークの若者には70年代、80年代のアイテムが新鮮に映っていて、非常に人気が高い。彼らは若い世代を意識して、ヴィンテージっぽい落とし込みをしている気がしました。

ジェンダーレスではなく、ジェンダーフルネスのための服

S:マリアムと言えば今回も体型も性別も様々なモデルがランウェイに登場しましたね。特に男性のプラスサイズモデルの起用は話題になっていました。

M:NYのファッション界では今ジェンダーフルネスという言葉がよく飛び交っています。性差を取り払うことを意味するジェンダーレスから一歩進んで、もっと包括的にみんなが幸せになろうというマインドから来る言葉です。性別や体型の違うを超えて、みんなが楽しむことができるファッションを作っていこうという感じですね。

S:ストリートファッションの中に70年代の要素を散りばめたコーチも、パステルカラーのコートや千鳥格子のスカートを身にまとった男性モデルが登場していました。それもジェンダーフルネスに繋がっているのかもしれないですね。

M:どこか懐かしい郊外の街を再現して、ポップなネオンカラーやレザーウェアなどアメリカンスタイルのレガシーを詰め込んだコレクションを発表しながらも、現代的な提案を取り入れる。春夏同様にスチュアート・ヴィヴァースの手腕と思いに感心させられるショーでした。

(左)COACH Photos courtesy of brand、(右)COLLINA STRADA  
(左)COACH Photos courtesy of brand、(右)COLLINA STRADA Photos courtesy of brand  
S:ジェンダーフルネスと聞くとコリーナ・ストラダも思い浮かびます。今回はランウェイショーではなくショートフィルムが上演されたのですよね?

M:カリフォルニアから出てきた少年がコリーナのスタジオでインターンシップをしながら成長、最後には晴れて正式採用となるまでを描いたユニークなムービーでした。多様なモデルを起用しながら、構築的なシルエットのボリュームのあるパンツやスラックスの上にミニスカートをレイヤードしたボトムなど、どんな性別や体型でも楽しむことができるファッションを提案していましたね。

S:こうしてお話を伺ってみると、規模感は小さくてもそれぞれのブランドが強い個性を打ち出していたように思えます。

M:パンデミックの影響で難しい状況にありますが、デザイナーたちはビジネスを成立させなければならない。だからこそ自分たちの武器はなんなのかをしっかりと考えて発表していて、それが見応えに繋がっていたのだと思います。

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エディターHA

ワードローブの中心はデニムとメンズのシャツ。『スターウォーズ』シリーズに出てくるイウォークに似た犬と暮らしています。

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