2月23日から27日の5日間にわたってSPURはミラノ・ファッション・ウィークをデジタルとフィジカルの両輪で取材。N Yに続き、オンラインでチェックしていた編集部が業界紙に寄稿する現地ジャーナリスト高橋恵さんに電話で直撃! ミラノで一体何が起こっていたのか? まずは前半2日間の出来事を時系列に総括。
スナップ隊も完全復活! 盛り上がるミラノ・ファッション界
SPUR編集部(以下、S): 2022-‘23A Wのファッション・ウィークも終わりましたが、ミラノはどんなムードでしたか? NYに比べてかなりフィジカルなショーが開催されましたね。
高橋さん(以下、T): ウィズコロナというよりも、無かったことになっているような……(苦笑)。ショーによっては椅子の幅しか隣の席との間隔がない場合も! ただ、スタンディングは絞っているのかなと思いました。話題だったのは、キム・カーダシアンがプラダに、リアーナとエイサップ・ロッキーがグッチに来場し、セレブが戻ってきたことですね。渡辺直美さんもお見かけしました! ストリートもすごいことになっていましたよ。スナップ隊も完全復活。キアラ・フェラーニ人気も相変わらず。フェンディのショー前なんて、若い子たちがたくさん集まっていて。誰を待っているの?と聞くと、「いろんな人!」との答え(笑)。アジアの人が少ないだけで、ファッション・ウィークの盛り上がりはかなり戻ってきている感じがします。
S: 前半の注目ブランドの様子を教えてください。まずは初日のグレン・マーティンスによるディーゼル。初のランウェイショーでしたね!
T: 何はさておき、会場に設置された巨大なバルーン人間にびっくりですよね。そして音楽が明るくない。雪男が唸っているような声というか呼吸音のような不穏な音だったんですね。で、横糸しか残っていないようなダメージデニムだったり、柄の生地をボンディングして、ところどころ剥がれていたり、素材へのこだわりが面白かったですね。以前グレンにインタビューした時も、素材の話ばかりしていたことを思い出しました。彼のこだわりが細部まで行き届いているからこそ、ダメージ加工をしていても、どこかに汚くないラインがあるんだなと感心します。一筋縄ではいかない感じが素晴らしい。巨大化したベルトを巻いただけのマイクロミニスカートなど、引き続きY2Kトレンドを牽引していますが、そろそろ次のステージも見せてほしいなと期待感が高まります。
S: このシーズンもディーゼルの躍進が楽しみになりました。時々『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(’14)か?と目を疑うモデルも登場し、画面越しにワクワクしました。続くフェンディはどうでしたか? パステルカラーのブロッキングやシフォン素材などフェミニンというかガーリーな要素が加わっていて、可愛い!と見ていました。
T: 今季のミラノでは、サンローラン的なマスキュリンな提案が多かったのですが、それ以外はフェミニンなものも見られましたね。中でもフェンディの女性像はギラギラセクシーじゃなく、フェミニンだけど、知的なフェミニン。ジュエリー アーティスティック ディレクターであるフェンディ家4代目のデルフィナ・デレトレズが、母親であるシルヴィアのワードローブから見つけたプリントブラウスを身にまとってローマの本社を訪れた姿から着想を得たコレクションでした。若くてエッジィな感じの人が、母親のブラウスを着ていたところがおもしろかったんじゃないかな。
S: キム・ジョーンズって、プレタポルテのファーストコレクションでもデルフィナのジャケットの着こなしにインスピレーションを得ていましたが、ミューズなのでしょうね。
T: とてもいい関係だと思います。ちなみに「フェンディのアーカイブスを探索するのは、服を持っている人のワードローブを見るのが一番いい」とキム・ジョーンズの言葉がリリースにありました。余談ですが、10年前にデルフィナの家で開催されたパーティに行ったことがあって、アート関係、ファッション関係の人たちが100人くらい集まって、みんなが踊ったりして大盛況のパーティでした。それだけカリスマ性がある方だと思いますね、デルフィナは。
コレクション自体は1986年に発表された幾何学プリントやテーラードのスタイリングと、2000年春夏コレクションの透ける素材の軽やかさを融合しています。ガンクラブチェック的な昔のクラシックをビスチェに仕立てるなどマスキュリンな素材をフェミニンなアイテムに仕上げて、よりフェミニンを内包するアイテムにしていたり、テーラードにシフォンをプラスしていたり。対極を示しながら、テーラードジャケットよりもフェミニンなシフォンの印象が強く残る。汗水垂らして働いている、意志を持った女性の姿が浮かんできました。個人的には、ベルトのようなウエストポーチがポイントだなと思います。バッグチャームもつけられる。これが1点あるだけでビスチェの服ももっと楽しくなりますよね!
S: 2日目の朝に行われたマックスマーラは、テディコートの素材を使った洋服が登場しましたね!
T: テディコート素材の洋服は、本当に可愛いですよ〜〜! もう、ファーストルックからよかった! ダダイズムの芸術家ゾフィー・トイバー=アルフへのオマージュでした。ゾフィーは分野の境界を超えたアートワークを行なっていた人で、その精神を讃えています。例えば、タイトとボリュームのコントラストなどに落とし込まれています。ダダイズムといえば虚無感、反抗、破壊をイメージするけれど、その感じは受けなかったですね。ニットのサイハイブーツやセーターの袖をよく見ると、ポコポコしたディテールが多用されているのですが、それはマリオネットの関節構造なんですって。ゾフィーの作品自体「喜びの抽象化」と評されていますが、マックスマーラのコレクション自体もまさにそうで、楽しさを包み込んでいる印象を受けました。
S: プラダは席数をかなり絞っており、ショーには入れませんでしたが、オンラインで見ながらモデルのラインナップに大興奮でした。エリン・オコナーやハナロア・クヌッツなど、往年のおしゃれモデルも登場。ラフ・シモンズが加入した最初のショーではフレッシュなモデルばかりの起用で、自分は圏外になってしまったかもしれない……と一抹の寂しさを感じていましたが、救われました〜〜〜。
T: そうですね〜! 現地メディアでは、女性の歴史、そして人物の歴史に関するコレクションだと報じられています。ファッションの歴史に関するコレクションではないとのこと。歴史を加味しながら着ることで、過去の人生とコンタクトでき、私たちも再び生きることができる。そして、ファッションを意思伝達のシステムとして考えると、システムの間を伝えるコレクションはイデオロギーになる、とミウッチャ談。難解ですね(苦笑)。
S: 合間にドルチェ&ガッバーナが支援するミス ソヒの展示会に行っていただきました。
T: ドルチェ&ガッバーナが材料を提供しているだけあって、金襴緞子を使用した1点ものの豪華なドレスの数々! 日本人モデル、黒木ユウさんが起用されていましたよ。
S: この日の夕方3時スタートのエムエム6 メゾン マルジェラでは、懐中電灯が配られたそうですね!
T: そうそう、会場が真っ暗だったの(笑)! 客席に強力な光を放つ懐中電灯が置かれていて、照らしながらルックを見るという仕掛けが面白くって、夢中で照らしていました。ストリートで見かける着こなしや服の中にある美しさを見出した、とリリースにありましたが、ピークラぺルのロングジレにヘビ柄のロンググローブをプラスしていておお!と思いました。ヘビが巻き付いているルックもあって、お茶目なイメージ。パイソンといえばセクシーになりそうなところ、怖くもなく、セクシーにも転ばず、さすがのクリエーションです。
S: 今回フランスのスポーツブランド、サロモンとコラボレーションしたスニーカーが発表されましたが、これはかなり嬉しいニュースでした! 実物を見るのが楽しみです!(後半に続く)
顔面識別が得意のモデルウォッチャー。デビューから好きなのはサーシャ・ピヴォヴァロヴァ。ファッションと映画を主に担当。