【2022-’23 ミラノ・ファッション・ウィーク放談・後編】現地ジャーナリストに聞いた、ミラノ後半のトピックス

2月23日から27日の5日間にわたってSPURはミラノ・ファッション・ウィークをデジタルとフィジカルの両輪で取材。N Yに続き、オンラインでチェックしていた編集部が業界紙に寄稿する現地ジャーナリスト高橋恵さんに電話で直撃! ミラノで一体何が起こっていたのか? 後編では3日目から最終日までを振り返る。

不安な社会情勢の中でファッションは何ができるか?

 SPUR編集部(以下S): 3日目はトッズからスタートしましたが、この頃同時にロシアのウクライナ侵攻が始まりました。現地の様子はどうだったのでしょう?

©︎IMAXtree/AFLO
©︎IMAXtree/AFLO こちらがルック39

高橋さん(以下T): 日本メディアの席はロシアチームと近いことが多いのですが、この日はそこがガラッと空いていて、心配になりました。ストリートスナップ時に抗議メッセージを掲げた人々も。不穏なムードが混在する中でミラノ・ファッション・ウィークは進んでいった印象です。ウクライナ情勢を心配しながら見たトッズですが、私はとっても好きでした。ケープ風やハンティング風、もしくは異素材のパッチワークなど、トレンチコートにいろんなバージョンが登場。クリスタルビーズの使い方も素晴らしく綺麗で。特にルック39のクリスタルで飾ったバミューダパンツは、バミューダ愛用歴25年の私も、今まで見た中で最も綺麗だと心酔。光り物はあまり好きではないのですが、マイクロジオメトリックなモチーフは意外と男前。今すぐ着たいし、何年も着られそうだし、まさにトッズが掲げる「タイムレス」を体現しているようです。

S: そしてこの日は久々にグッチがミラノに帰ってきました。アディダスとのコラボレーションも登場したり、リアーナとエイサップの最強カップルも来場して、ゴージャスな印象です。

©︎IMAXtree/AFLO
©︎IMAXtree/AFLO

T: アディダスとのコラボレーションは絶対に人気が出そうですよね。売れそう。引き続き70年代風のヴィンテージ感を大切にしているからか、「スポーティ」が爽やかじゃないところがいいなと思っています。アディダスなのに、一癖ある。インクルーシブなものを表現していて興味深いです。本来のアディダスのイメージも活かしながら、違うものになっているのはさすが。

S: 4日目にはジル サンダーがありました。ミニ丈のドレスやリボンモチーフなど、ガーリー度がアップしていて目がハートに。 

©︎IMAXtree/AFLO
©︎IMAXtree/AFLO

T: インビテーションには月の満ち欠けが描かれたハンカチがついていたんですが、女性を象徴する月が静かに形を変えるように、しなやかに服を着てほしいというメッセージにも取れました。

photography: Megumi Takahashi
photography: Megumi Takahashi こちらが招待状と一緒に届いたハンカチ。

T: ボタンやイヤリングなど、細部に月モチーフも見られました。今季はリボンディテールが目を引きますが、ジオメトリックで甘すぎない。それがとても可愛いです。いつもはもっと大人ですよね。ただ、皆が皆、キリッとしたものが似合うわけではないし、フェミニンで優しい要素が加わって素敵だと思います。

S: 優しい世界から一転、続くドルチェ&ガッバーナはとてもサイバーなショーでしたね。 

©︎IMAXtree/AFLO
©︎IMAXtree/AFLO

T: そうそう、ショーとしても面白かった! 会場にはシャロン・ストーンの姿がありました。CGでアバターが出てきて、フィナーレには空中を飛んでいましたよ(笑)。極端なビッグショルダーや、ウエストを強調するシルエット、ユニークなサングラスにエナメル素材。それらから感じられるように、ゲーム・バーチャル世界のヒロインがテーマでした。ちなみに、招待状と共に届いたのはガーターベルトとストッキング!

S: え! 豪華な招待状ですね‼︎ 画面越しにも、ファッションショーの醍醐味を味わえるものでした。その後のマルニではダメージ加工されたルックが印象的!

©︎IMAXtree/AFLO
©︎IMAXtree/AFLO

T: 実は会場がとても遠かった上に、40分以上遅れて始まり、全員がスタンディング。どこを通るのかもわからないので、自発的に通り道を作り始めたりも(笑)。立っている位置によって、見えないルックもあったので全貌が掴めない人もいたのかなと思いますね。2人1組で縦に並んだモデルが出てきて、一人は普通なんだけど、もう一人はマスクを被り、後ろから懐中電灯で前を歩く人を照らしている。服はボロボロのグランジ。かぎ裂きや穴を修繕したようなステッチが目立ちました。ところが一転、終わって外に出たら、晴天の下、地面が青い砂に覆われていて、饗宴のテーブル席が設けられていました。モデルたちが、テーブルの上で踊ったり、お菓子を食べたりしているのですが、退廃的な感じがしてしまいました。

photography: Megumi Takahashi
photography: Megumi Takahashi 

S: おおお、確かに享楽的でありながらデカダンなムードですね。

T: 実は、直前にデザイナーのフランチェスコ・リッソから直筆の手紙が届いていたんですが、そこには「思い出を呼び起こすものを修繕したり、暗闇を共に歩んだりすることで、一緒に未来を創って行こう」というポジティブなことが書かれていたんですよね。でも、ショーから受けた印象は、暗闇の混沌としたムード。彼は悩んでいるのかな?とも感じました。

S: 模索している感じが伝わってきますね。22年春夏のショーは人間讃歌を表現したポジティブなものでしたが、デザイナーも悩み、試行錯誤しながらファッションを通じて世界にメッセージを届けているのだなと感じます。

©︎MSGM
©︎MSGM

T: そうですね〜。5日目の朝に行われたMSGMでは、席にデザイナーのマッシモ・ジョルジェッティの手紙が置かれていたんです。「このところ空を見ている。宇宙の彼方に自分を投影して楽しんでいる。宇宙と聞くとテクノロジー的なものが思い浮かぶかもしれないけれど、科学とユートピアが出会う創造的ラボ、ファンタジーあふれる新発見の場であり、未知の生き方の可能性が広がる夢としてとらえたい。これから未来に向けて記す物語の1ページのように」というメッセージがあって。そうしたロマンの世界に誘ってくれるのもファッションだなと思いますね。

 

エディターKINUGASAプロフィール画像
エディターKINUGASA

顔面識別が得意のモデルウォッチャー。デビューから好きなのはサーシャ・ピヴォヴァロヴァ。ファッションと映画を主に担当。

記事一覧を見る

FEATURE