ヴァレンティノによる2022-23年秋冬 オートクチュール コレクションが発表された。ロケーションは、メゾンのルーツであるローマ。「Valentino The beginning(はじまり)」と題されたコレクションは、ピエールパオロ・ピッチョーリのローマへの賛美、そしてメゾンに対する敬意を表している。
奇しくも今年は創業デザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの90歳を迎える年。舞台となったのは、観光名所としても名高いスペイン広場には、アン・ハサウェイやママムーのファサなど、世界各地から集まったセレブリティたちが押し寄せた。
ファーストルックで登場したのは、薔薇の花をシルクタフタで表現したマイクロミニドレス。薔薇のモチーフはこれ以外に、メゾンのアーカイブに着想を得たカシミアのインレイや、テーラリングの胸元に合わせたコサージュなど、多種多様な解釈で登場した。
ヘリテージにオマージュを捧げる一方で、ピエールパオロ・ピッチョーリらしい軽やかなモダニティはコレクション全体を通して徹底されている。例えばカラーストーリー。ライムグリーンとパープル、ピーコックブルーとライトピンク、ベージュとイエローなど、巧みに組み合わされた絵画的な色の組み合わせは、ピエールパオロの御家芸だ。
オートクチュールならではの煌びやかな装飾は、クチュールアトリエの手腕の見せどころだが、ここでも表現力の豊かさが光る。シアーの素材から大小様々なスパンコールを敷き詰めたソワレの煌めき。羽飾りの軽やかな大胆さ。メンズのトラウザーズでは、均一にスパンコールを縫い付けることでパテントレザーのようなヌメりのある質感を表現した。
フィナーレでは、ピエールパオロ・ピッチョーリがアトリエスタッフと手を繋ぎながら登場。会場は割れんばかりの拍手と歓声で包まれた。「The beginning」とは言うが、ピエールパオロが今回のコレクションを通して表現したかったのは、懐古主義でも、リブランティングでも決してない。恐らく彼が伝えたかったのは、ローマという街の持つ歴史的価値、ヴァレンティノというメゾンのDNA、そしてチームや家族、彼を取り巻く人々への再現なき愛情、それらをタイムレスな美しさという形で表現することだろう。覚めやらぬ熱気は、ショーが終わってもなお会場を、そしてローマ全体を包み込んだ。
text: Shunsuke Okabe