【2023年春夏ロンドンコレクション】SPURのベスト3コレクション! 異例のシーズンとなった今季、注目のブランドをおさらい!
2023年春夏ロンドンファッションウィークは、ショーの延期や中止が目立った異例のシーズンでした。9月8日のエリザベス女王の死去を受け、15日開催のファッションウィークにもなんらかの影響はあるだろう……と予想され、実際ショーの前に黙祷があったり、追悼の意を示すような演出や黒のルックを出すブランドがいくつかありました。個人的には、この短期間でどうやってルックを準備したのだろう!?とか、そもそもの演出はどういう予定だったのかとか、ショーの舞台裏が気になってしまったのですが……、長きに渡って国民を導いてきた君主に敬意を示す姿が非常に英国ブランドらしいと感じました。“華々しい盛り上がりを見せた!”とは言えませんが、確実に記憶に残るシーズンです。この記事では、中でも編集部が気になった3ブランドをピックアップし、ベストルックとともに見どころを解説していきます!
【S.S. DALEY】LVMHプライズを受賞後初のショーは、ウェアラブルな提案で
まずは、まさに“喪に服す”演出からスタートしたエス エス デイリー。この夏、LVMHプライズを受賞したことで、今シーズンへの期待も高まっていたブランドです。ファーストルックでは、ろうそくを持った黒の集団が厳かにランウェイを歩いていきました。演出としてのお飾り的ルックでなかったのが好印象で、コーデュロイ素材の美しいテーラードジャケットに、ブランドの人気アイテムであるワイドトラウザーというスタイルがシックで素敵でした。胸元を大きく開けたインナーの白シャツの着こなしも含め、マネしたいバランスです。
コレクションの着想源は、2人の実在する女性作家の悲恋。社会的に引き裂かれてしまった2人とその周辺のモチーフが落とし込まれています。印象に残るのは、散りばめられた“ウサギ”たち。愛し合う彼女たちが手紙の中でよく言及していたそうです。このウサギがコレクションにキャッチーなバイブスを与えていて、トレンチコートに大胆に描かれていたり、Tシャツにプリントされていたり。ウサ耳&ヒゲを付けたモデルが登場した時にはびっくりしましたが、ダークファンタジーなショーの雰囲気のおかげかいつしか見慣れていきます。
ここでのベストは、ブランドのアイコン的アイテムでもある、ボリュームスリーブシャツにタンクドレスを重ねたルックです。ブランドらしさを出しつつ、多くの女性たちの今の気分にフィットする一着に仕上げているところが素敵でした。シャツにプリントされた花柄のノスタルジックなムードは、英国のカントリーサイドを連想させます。同じくニット帽やハイソックスなど小物使いにも、いい意味でのいなたさがあって、大胆なスリットを効かせたエッジ―なタンクドレスとのコントラストが今っぽい。
ドラマチックなテーマや演出ではありながら、服1体1体は先シーズンより軽やかでウェアラブル。賞の受賞も手伝って、今後より多くの人にリーチするブランドとなるかも、と感じました。
【JW Anderson】ゲームセンターを舞台に提示する、ジョナサンの哲学
コレクションの舞台は、ロンドンのソーホーにあるゲームセンター。この異質な空間の中に、登場したのはポリ袋に閉じ込められた金魚をプリントしたミニドレスや、巨大な洗濯表示をつけたTシャツなど奇想天外なルックたち。今回ジョナサン・アンダーソンが表現したのは、混沌とした世界の様子、ゲームやネットの中のパラレルワールドに没頭する現代の私たちの姿。”一種のリアリズム”がコレクションを通して示されたメッセージだそうです。例えば、古いキーボードを服に張り付けた提案は、人間がコンピューターを体に取り込んでいる……いやむしろ逆で、コンピューター側が人間を浸食している!? ようで、私たちがデジタルに依存する様を分かりやすく表しています。PCのスクリーンセーバーを思わせる自然や動物の写真を転写したウェアもユニーク。空や海がわざとらしいほどのブルーで、自然でさえもスクリーン中に閉じ込めてしまっていることへの悲しみや、皮肉が感じ取られました。
ついつい奇抜でコンセプチュアルなルックに目を奪われますが、ウィットに富んだエレガンスを体現するルックも発見。レースをあしらったランジェリーライクなキャミドレスは、1つのブラカップだけで構成されたようなワンショルダーのデザインにアレンジ。イエロー、カーキ、ブラックとカラーバリエーションも展開されました。さらに、先ほどもピックアップしたキーボードのディテールも、トップスの全面を覆うほど無数に張り付ければ、まるでモザイクアートのように芸術的。さらにトップスがホルターネック型、あわせたショートパンツも輝くメタリック素材でモダンなパーティーガールのようなスタイルに。こちら、編集部的ベストルックに決定!
【BURBERRY】リカルド・ティッシ最後のショーは、ブランドとビーチへの賛辞を込めて
バーバリーのコレクションが開催された日には、すでにミラノコレクションが終わり、パリコレクションも始まっていた9月の下旬。英国王室にゆかりのあるブランドとして、本来のスケジュールから大きく延期されていました。ショー全体にはどこか静かで落ち着いた雰囲気が流れていて、最初の数ルックな無音の中披露されました。コレクションのテーマが“ビーチ”と発表されていたので、意外な印象でしたが、これはイギリスにおけるビーチが、バカンス的な陽気なノリだけでなく、人が集まる社交場としての意味合いも持っているから。あらゆる年代、体型の様々な人種がそこに集い、服を着たり脱いだりする様子からインスピレーションを受け、ルックではアウター、スイムウェア、ランジェリーと様々なアイテムの交差が印象的でした。
例えば、スイムスーツとフルレングスのドレスが一体化したシリーズ。ドレスの上にぺたっとスイムスーツが張り付けられたデザインや、ドレスの脚の付け根に大胆なカッティングが施されそこからビキニラインをのぞかせたディテールで、センシュアルとエレガンスの融合がなされていました。こうした“新たなセンシュアリティ”で身体を意識するアプローチは、今回のコレクションのテーマだったそう。
ブランドの伝統的なコードにひねりを効かせた提案も際立っていました。バーバリー ハウスチェックは、レースやシースルーの素材でボディースーツに落とし込まれ、トレンチコートは春夏らしいスリーブレスになり、カジュアルなショートジャケット、ハリ感の美しいスカートにも生まれ変わりました。
バッグでは腕用の浮き輪を模したユーモアあふれるデザインが登場。シューズは、優雅なイヴニングドレスにいたる全てのルックでフリップフロップを着用していて、ビーチのテーマが小物に強く反映されています。
エレガンスへの実験的なアプローチが楽しく、また”ビーチ”の概念を広げてくれたコレクションでした!
20代向け女性誌からSPURへ来て、モード修行中。服は、シックな色であればあるほど落ち着きます。ホテルステイ&愛犬との時間が最高の癒し。