【2023-'24年 秋冬パリ】 SPUR編集長の現地レポート、心を掴んだ6つのブランドは?(前編)
NYからスタートしたファッション・ウィークはロンドン、ミラノを経てパリへ! アン ドゥムルメステール、ニナ リッチは新たなクリエイティブ・ディレクターを迎えたほか、ヴィヴィアン・ウエストウッドでは創業デザイナーの没後初のコレクションが話題に。アレキサンダー・マックイーンやパコ・ラバンヌの公式スケジュール復帰といった注目トピックが目白押しだった2023-24年秋冬パリ・ファッション・ウィーク。中でもSPURが語りたいブランドは? 現地取材した編集長NAMIKI&日本での取材を担当したエディターHの生の声と共にお届けします!
エディターH(以下H):取材、お疲れ様でした! パリのコレクション会場にも他都市同様、各国のセレブリティが集結。編集長がキャッチしたBLACKPINKのジスさんのドレス姿やNCT 127のテヨンさんのコメントがファンの皆さんの間で話題になっていましたね。
編集長NAMIKI(以下N):アジアンセレブリティの人気は、パリでさらにヒートアップ! 会場外にもパパラッチが押し寄せて、誰かが登場するたびに悲鳴に近い歓声が沸き起こっていました。
H:錚々たるスターたちを目撃したと思いますが、中でも印象に残っているのは誰ですか?
N:みんな輝いていたので一人だけを選ぶのは難しいけれど、個人的にキュンとしたのはジャレッド・レトさん。見かけるたびに服装もメイクアップも変えているのが素晴らしかった。テイストの異なる複数のブランドを自分らしく着こなす姿にファッションへの深い愛情を感じたし、これぞ究極のエンターテイナーと感動……!
H:ブランドへのリスペクトがありながら、個性を発揮する方って素敵ですよね。
N:ルイ・ヴィトンのショーに来場したペ・ドゥナさんも輝いていました。力強いデザインの服をあえてナチュラルなメイクアップと知的なアティチュードで見事に着こなしていて。ご自身の個性がしっかりあるから、服に負けないのだなぁと見惚れました。彼女とお話しできたのは、ショーの余韻とも相まって、心躍る時間でしたね。
【LOUIS VUITTON】シアトリカルな演出とドラマティックなワードローブに感動!
H:そんなルイ・ヴィトンの今回のテーマは、"フレンチスタイル"。ディテールの拡大と誇張がカギとなっていた先シーズンよりもぐっと落ち着いた印象でした。
N:近未来的な世界観を得意とするニコラ・ジェスキエールですが、今回はいつもよりノスタルジックなムードに。構築的なシルエットはそのままに、繊細な刺繍やぬくもりあるテクスチャーが際立っていて。絢爛な迫力に、思わず息を呑みました。
H:オルセー美術館で開催されたショー会場のデザインは、今回もフランスを代表するアーティストであるフィリップ・パレーノが担当。特殊な音響施設が印象的だったとか。
N:旋回するスピーカーからは360度あらゆる角度からサウンドが流れてきて。あるところからはヒールの足音、あるところからは優美な旋律と没入感たっぷりで、壮大な演劇を観ている感覚に。圧倒的な華々しさに感動した一方で、SF的なアイウェアを合わせる奇抜な発想を織り交ぜるところも今のルイ・ヴィトンらしくて好きでした。
H:ニコラならではの遊び心ですね。
N:実は彼はテーマパーク好きと聞いたことがあって。グルービーな感性から生まれる唯一無二のアイデアにはすごくワクワクします。リアルに欲しい!と思ったのはホルンなどの楽器をモチーフとしたブローチ。ローゲージのニットやストールにつける着こなしはぜひマネしたい。
H:フランス国旗と同じトリコロールカラーで彩られた「GO-14」バッグも気になりましたし、秋冬のルイ・ヴィトンでは小物も要注目ですね。
【CHANEL】カメリアの花に共鳴する、王道のエレガンス
H:ドラマティックなショーといえばシャネルも忘れられません。今回は会場中央にガブリエル・シャネルが愛した花、カメリアの巨大なオブジェがお目見えしました。
N:客席にも一輪ずつ白いカメリアの生花が置いてあり、うっとり。そしてオブジェや円柱型のスクリーンには映画『ポリー・マグーお前は誰だ』が着想源となった小松菜奈さん出演のムービーが映し出されていて。トップメゾンのショーの主役に日本人が抜擢されることはめずらしく、日本から参加したみんなが勝手に誇らしい気持ちに……。
H:夫の菅田将暉さんとショー会場に現れたこともホットトピックとなっていたし、フィナーレではヴィルジニー・ヴィアールがフロントロウに座っていた彼女のもとに駆け付けてハグを交わしていて。まさに今回のショーの顔といった感じでしたね!
N:ランウェイでも彼女が登場したティザー映像と同じく、60年~70年代のムードを感じるルックが印象的。服にもカメリアが咲き乱れていました! コートやジャケットはカメリアの刺繍が施され、セーターやジャケットには花を彷彿させる立体的な造形。メゾンを象徴する可憐で優美な花を主役にした世界は、説明不要の魅力がありましたね。
H:シャネルがシャネルらしくあることの素晴らしさを表現するのがお上手なヴィルジニー。今回もその手腕が存分に発揮されていたように思います。
N:今回もモノトーンを中心としたルックが多かった中で、私的ベストは後半に登場した鮮やかな赤のルック! 映像に映る小松菜奈さんのメイクアップと相まり、アンナ・カリーナのイメージが思い浮かびました。秋冬、赤いタイツが流行する予感すら抱きましたね。
【LOEWE】リアルでありながら芸術的。ジョナサン・アンダーソン流の"ウェアラブル"
H:ルイ・ヴィトン、シャネルと演出にも趣向を凝らしたショーが話題にのぼっていますが、ロエベもひとひねりあったとか?
N:会場に入るとしきりに「静かに歩いてください」と言われて。接着剤などを用いずにコンフェッティ(紙吹雪)を圧縮して形作ったキューブが会場内に点在していたからだったんですよ。ショーが始まってモデルたちが闊歩するとそれが徐々に崩れていくという仕掛けで、アーティストのララ・ファヴァレットが手がけたインスタレーションです。
H:ショーが終わった後は舞い上がった紙吹雪でゲストたちが遊んでいたと聞きました。
N:世界中から集まったファッション関係者たちが童心に返ってはしゃぐ様子は可笑しくも心温まる光景。ユーモアあふれるジョナサン・アンダーソンならではの狙いが効いたショーでした。
H:ファッションにアート的な付加価値を加える挑戦を続けてきたジョナサン。ランウェイでは今回も裾から伸びたチェーンとバッグが一体化しているようなドレスなど芸術的な服が発表された一方で、リアルに着たい!と思うルックも多かったです。
N:ショーの初めを飾ったイヴ・クラインの絵画を彷彿とさせるシルクドレスは、40年~50年代のヴィンテージの服をあえてプリントしたもの。近年ヴィンテージ服が流行する中で、単純にアーカイブスのデザインを取り入れるのではなく、スクリーンプリントするという一歩先行くアイデア。独創的でありながら奇抜すぎない、卓越したバランスはさすが!
H:“ウェアラブル”は今回のパリでのキーワードとなっていましたが、アーティスティックな感性をリアルに落とし込む点でロエベは際立っていましたね。日本でも編集部の若手スタッフを中心に「この秋冬、いちばん着たいのはロエベ!」という声が多く挙がっていました。さて、ご紹介した3ブランドをはじめとしたドラマティックなショーに魅せられた一方で、今回のパリでは服との向き合い方を見直したブランドが出てきたことも注目すべきポイントだったんですよね?
N:そう、それなしには今回のパリは語れない! 後編で詳しくお話をしましょう。