9月8日から13日の6日間にわたって開催された2024年春夏ニューヨーク・ファッション・ウィーク。デジタルで取材していた編集部が、現地のファッションジャーナリスト森光世さんにオンラインミーティングで直撃取材。様々な変化が形になって現れたニューヨークの、注目コレクションやルックについて聞いてみました!
SPUR編集部(以下、S): 現地はどんなムードでしたか? 新たに生まれ変わったブランドや久しぶりにファッション・ウィークに参加するブランドがいくつもあって、勢いを感じましたね。
3.1 Phillip Limは4年ぶりのショーで華麗なる復活!
森さん(以下、M): 4年ぶりにショーを開催したフィリップ リムは、フィナーレで登場した時に、今シーズン最も盛大な拍手をされていましたよ。会場が揺れそうなほど! 本当にこれまで続けてきて良かったなと嬉し泣きしているようで、彼の表情が今でも忘れられません。こちらまで胸が熱くなりました。
S: フィリップは最近『きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち』(NETFLIX)に出ているのを見ていて、めっちゃスターになってる!と思ってました(笑)。
M: 彼は今、オーガニゼーションを組織して体勢を整えて、アジアンアメリカンを積極的に支援しているんですよね。立派ですよね。今季の3.1 フィリップ リムは4年間の時を経てプロポーションがアップデートされてると感じました。たとえばトップが長すぎるとか、ボトムがほんの少し短すぎるとか、時々そういうことがあったんだけど、今回はすごくバランスが良かった。整理されていてまとまっている印象を受けました。ちょっとした膨らみを持たせるとか、コードを使ったディテールのあしらいとか、そういうの彼は昔から上手いんだけど、一層洗練されていました。
S: 他に気になったルックはありましたか?
M: ちょっと意外だなと思ったのが、スカーフをたっぷり使ったこちらも、ショーで歩いているのを見たらすごく綺麗なドレスでした。写真じゃ伝わりにくいかもしれないのですが、色使いや生地の揺れ感、綺麗でしたよ〜! こういうのも素敵に作るんだなって改めて感じ入りました。
M: でも何よりも最後の彼の表情が忘れられないかな。会場も「ウエルカムバーック!」っていうムードに包まれて、アメリカのジャーナリストも一斉に声をかけてるって感じでしたよ。彼が楽屋に戻ったら、そこでもモデルたちからすごい歓声が湧いていて、こちらにも聞こえてくるんです。モデルたちも喜んでいたみたい。
S: そういう話を聞いてると、どんどん着てみたくなりますね! 他に注目していたブランドはありますか?
ヘルムートラングはピーター・ドゥがピンクのカラーパレットを踏襲
M: やっぱり、みんなが期待していたのはピーター・ドゥの新生ヘルムート ラング。うーん……ラングにすごく憧れている彼だからこうなったっていうのはわかるのだけど、正直コピーしすぎているかなという印象で、もっとピーターらしさを出してよかったし、見たかった。ピンクの差し色を使っているけど、ラングのミニマムな世界に合うピンクってちょっと違う、もっと冷たいピンクなのかなと思ったり。ピーターならではの世界がこれから作られていくことを楽しみにしたいですね!
S: 森さん的にここは注目すべきだ!と思ったブランドの様子を教えてください。メールレポートではプロエンザ スクーラーについてとても素敵だったとおっしゃってましたね。
プロエンザ スクーラーはウエスト位置や素材で軽やかさを表現
M: そう、すごく良かったんです。雲のようなプリントの軽やかな素材を使用していたこのルック、歩いているのを見たら本当に素敵でした。それはもうモデルが歩いてきたら会場にいる人が一斉に写真を撮りまくっていたくらい。もうひとつ気になったのがウエストの位置。だいぶ下がってるんですよね。肩のラインもナチュラルでさらっとしてる。この軽さとウエスト位置にとてもリラックスした雰囲気を感じました。
S: リラックスしたムードというのは他のブランドでも共通して感じたことなんですか?
ラルフ ローレンは意外性のあるエレガントなボヘミアンルックを提案
M: ラルフ ローレンからもその潮流を感じました。ラルフ ローレンはニューヨークでは久しぶりのショーでとってもエネルギーに溢れていましたね。得意中の得意のアメリカンエレガントなルックにとどまらず、よりボヘミアンな提案がありました。アーティストのアトリエという設定で、どこかあたたかみのあるエレガンスが感じられました。それはパリのラグジュアリーとは違って、もっと人々を拒絶しない、スノッブでない親しみのあるラグジュアリーで、堅苦しくないリラックスしたムードだと思います。ラルフ ローレンでこういう新境地の開拓が見られたのはすごく良かった。今もこんなことやっちゃうんだという挑戦。拍手喝采でした。
S: 拍手喝采! やはり、ニューヨークで見るラルフ ローレンは最高ですよね。他に進化を感じたデザイナーがいれば知りたいです!
ADEAMはシアー素材をブランドらしく解釈
M: アディアムのこのベビードールのドレス、すごく可愛かった! 今までもっと大ぶりなドレスも多かったけれど、今回はバレエがテーマということを意識してのことかもしれません。前田華子さんはこういう透け感のある素材の使い方がものすごく上手。センシュアルで可愛いけど知性的な着地で。彼女は一度ニューヨークシティバレエ団の衣装をデザインしたことがあるんですよ。だからきっと、バレエダンサーの動きをよくわかっているのでしょうね。今回演出では会場の真ん中で円形のスポットライトが当たるなか、ニューヨークシティバレエ団のプリンシパルダンサーであるタイラー・ペックが踊るという演出があったんですけど、その動きや体に合わせたスカートの揺れ方なびき方、計算されていました。すごく研究したんじゃないかな。その経験がこういったシアーな素材を使ったドレスに反映されている気がします。シアーな素材をエロチックでなく、聡明な可愛さの方向に持っていけるのは、彼女の強み。
スチュアート・ヴィヴァースによるコーチは、90年代ニューヨークのナイトアウトスタイルがイメージソースに
M: ベビードールやスリップドレスのようなトレンドはいろんなブランドから出ていてコーチにもそんなルックがありました。コーチは、スチュアート・ヴィヴァースが就任10周年ということで、彼のニューヨークへのメモリーがベースになったショーでした。特に、90年代に彼が初めてニューヨークに来た頃、ダウンタウンでクラブに出入りしているような女の子たちのドレスアップが印象的だったようで、今回のコレクションの着想源になったようです。当時ってやっぱりこういう透け透けでちょっとパンクっぽかったりするドレスを着ていく子がいっぱいいたんですよね。会場もゲストも豪華で、彼の10年間進み続けてきた歩みを見ているような感じでしたね。
S: コーチのショーを見ていたら、バッグ2個持ちスタイルがやりたくなってきました。しかも小さいバッグを2個持つって可愛いなと(笑)。
リアルに欲しくなったシューズ&バッグはアルチュザラとトリー バーチ
M: あとね、個人的にアルチュザラもすごい勢いを感じました。私このルックのバッグ欲しくなっちゃいました(笑)。アウトフィットも着やすくていいと思います。こちらもウエスト位置を下げてるんですね〜。だけど、カジュアルじゃない感じです。アメリカのスポーツウェアとか見ててもそうですけど、カジュアルっていうよりもリラックスっていうのが今しっくりきますね。カジュアルっていうとストリートにいっちゃうけど、アメリカのハイファッションというジャンルのリラックスは、シャツやテーラードジャケットだけど、ウエストは落として穿くくらいのテンションなのかもしれません。なんというかミウッチャ・プラダっぽいというか(笑)。
M: でね、リラックスといえば、このトリー バーチの靴もすごくいいと思いました。丸っこくて、歩きやすそうで気になっちゃいました。ショーもすごく良かったです。会場はアメリカ自然史博物館というところで、ここでファッションショーをしたのは今回が初めてだったんですって。ファーストルックが出てきた瞬間、あ、これすごくいいショーになるかもって私予感したんです。そしたらやっぱり良かった。コートもすごく良かったんですけど、でもやっぱりこの靴が新しくて面白いな。見たことない感じなんですけど、すごく履きやすそうじゃない? リラックスだけどカジュアルじゃない、が重要なポイントのような気がするシーズン、この靴売れるんじゃないかと思います!