9月18日から25日の期間開催された2023-24年秋冬ミラノ・ファッション・ウィーク。新クリエイティブ・ディレクターのデビューを控えるブランドが複数あり、開催前から注目を集めていた今季から見えてきたものとは? 現地ミラノを取材したSPUR編集部Cと日本から取材を担当したエディターRがインタビュー。ミラノ全体のムードと心に残ったブランドをレポートします!
エディターR(以下R) : コレクション取材、お疲れ様でした! 今季のミラノはどんな感じでした?
エディターC(以下C) : 一言で表現するなら、今から次のシーズンが楽しみ! 取材を終えたばかりですが、今後の展開を期待させるブランドが多かったです。その代表は、サバト・デ・サルノが新クリエイティブ・ディレクターに就任したグッチと、同じくディレクターの入れ替えがあったバリー。どちらも好調なスタートを切っていました。これからどのようにブランドのイメージを固めていくかが気になりますね。また、生まれ変わってから1年が経ったエトロとフェラガモは、徐々に独自のカラーを強めていたのが印象的。ブランドの進化の過程をリアルタイムで体感できるのが今のミラノの面白いところです!
R : 確かに、昨今のミラノは転換期を迎えるブランドが多いですね。新生グッチ、新生バリーは、周囲でも楽しみにしているとの声を多く聞きました。
C : コレクションへの評価は様々だと思いますが、今季の見所の一つでしたよね。そんな中で、ずっと変わらずに”イタリアならではのエレガンス”を提案し続けるブランドもあり、その信念にも魅了されました。
R : ドルチェ&ガッバーナのイタリアらしいパワフルでゴージャスな雰囲気は、エネルギーに満ちていて、見ているだけで自己肯定感が上がりました!
C : ボッテガ・ヴェネタに代表されるように、アートとの融合も昨今ミラノで見られる潮流かも知れませんね。新生グッチもアートへ注力して行く気配が感じられました。
R : 全体のムードをおさらいしたところで、気になったブランドを詳しく見ていきましょう!
【BALLY】フレッシュにリボーン。”欲しい”を掻き立てるウェアラブルな服
グッドガールなジャケットのセットアップは、ミニボトムでフレッシュに落とし込む。老舗ブランドの端正なレザーアクセリーにも再注目したい。©︎IMAXtree/AFLO
R : まずは、新デザインディレクターのシモーネ・ベロッティによるバリー 。前任のルイージ・ビラセノールの任期はわずか1年でしたね。
C : ルイージのバリーは、グラマーで存在感のあるデザインでしたが、一転してシモーネが打ち出したのは、フレッシュでウェアラブルな服。素直に”欲しい”と思わせるアイテムが多かったです。「上質なデイリーウェア」は、今シーズンをくくるキーワードの一つですが、それが体現されていました。ファーストルックに代表されるようなシャツにジャケットのルックのバリエーションが多く、クリーン。そこにミニボトムや鮮やかな色使いがフレッシュなアクセントになっていました。
R : クラシカルなデザインのシューズ&バッグからは、老舗ブランドならではの格式を感じました。その中に、キャップやドット柄などの古着っぽいニュアンスが差し込まれているところは、若い世代にも親しみやすさを与えそう。最後に登場したシモーネ氏もルックで出てきたようなキャップではずしたスタイルでしたね。本人のキャラクターも気になるところ!
キャップやノスタルジックな柄などのヴィンテージ風アイテムが肩の力を抜けた雰囲気を演出。©︎IMAXtree/AFLO
【GUCCI】洗練されたデザインと仕立てのよさで魅了したデビューコレクション
端正なロング丈のジャケットにシンプルなタンクトップを合わせたファーストルック。アイコンバッグ「ジャッキー 1961」はコレクションを象徴する深い赤に染められた。©︎IMAXtree/AFLO
R : 新クリエイティブ・ディレクター サバト・デ・サルノによるファーストコレクションとして多くの人が待ち望み、期待を膨らませたグッチ も語らずにはいられません。テーマが「アンコーラ(ancora)」でしたが……?
C : ”Ancora”はイタリア語で”もっと”、”さらに”などの意味。そのテーマ通り、グッチというブランドにさらなる魅力を加え、もっと着たい! という気持ちにさせられました。サバトは、プラダに始まりドルチェ&ガッバーナ、ヴァレンティノと数々のブランドでキャリアを積んできただけあって、服の細部へのこだわりや、仕立てのよさにこだわりを持っているように感じました。
R : ミニマルなデザインの服が多かったですね。
C : 昨今のグッチに比べると物足りなさを感じる人もいるかもしれませんね。でもその潔さに拍手を送りたい! なかなかデビューコレクションでここまで削ぎ落とした提案をするのは、勇気がいることだと思います。その心意気に胸を打たれましたね。ランウェイで見るとすっきりとした印象が強かったのですが、後日展示会で間近で見てみると計算されたデザインの美しさや素材の上質さが際立っていました。
ウィッシュリスト入り確実はスウェットのシリーズは、ストイックなレザーのスカートと。©︎IMAXtree/AFLO
R : ワードローブの軸になる美しいジャケットや、日常でヘビーユースしたいスウェットなどウェアラブルなアイテムが目につきました。
C : ”美しい日常着”と呼ぶにふさわしい服が多く、あらゆる層に訴える提案が上手でしたね。コマーシャル的にも成功しそう。ブランドのヘリテージへのリスペクトも要所要所に感じられたのもよかったです。キーカラーとなっていた深いレッドは、グッチオ・グッチが1ポーターとして働いていたロンドンのザ・サヴォイ・ホテルのエレベーターの壁からの着想。アイコンバッグである「ジャッキーバッグ」 や 「バンブーハンドル バッグ」も見られ、”グッチらしさ”を失わず、新しいひねりを加えたスマートな提案が光っていました。
R : 急遽コレクションの会場を変更するというアクシデントもあったと小耳に挟みましたが!
C : 当初は、ミラノ市内のアートディストリクトとして知られるブレラ地区が会場だったのですが、雨天のためにGucci Hubと呼ばれるブランド所有のスペースに変更になったんです。今回、コレクション発表と同時にサバトは『Gucci Prospettive』というアートブックを刊行。さらにブレラ地区のギャラリーでサバトが選んだアーティストたちによる展示も開催していました。芸術とファッションの対話を探求するプロジェクトの一環とのことで、少し前から見られる”ファッションとアートとの融合”というムーブメントが、今後よりいっそう存在感を強めていきそうです。
【BOTTEGA VENETA】技巧が光る服で、自由な旅に出る
よく見るとイントレチャートになっている芸術的なスカート。©︎IMAXtree/AFLO
R : アートやクラフトをコレクションに取り入れるのは、マチュー・ブレイジーのボッテガ・ヴェネタ で顕著に見られますよね。
C : 前シーズンで「イタリア三部作」が終了し、今季のテーマは長い旅を意味する「オデッセイ」。コレクションのリリースには、『トム・ソーヤーの冒険』からの一説が引用されていました。会場には海や大陸、あらゆる動植物のモチーフが描かれたタイルが敷き詰められ、その上を歩いて行くモデルたちさながら旅をしているようでした。さて、このタイルですがポルトガルからショーのために空輸されたそう。
R : 会場もこだわりのアート空間だったのですね! ニット素材の水着に始まり、スーツにドレス、途中には民族衣装を思わせるエスニックテイストのルックも登場して、旅で出会う様々な人や文化が交差していくようでした。ディテールでいうと、フリンジが気になりました。
C : フリンジなど揺れるデザインは、今季多くのブランドで見たトレンドです。ただボッテガ・ヴェネタはひと味違って、実は、レザーとリネンをより合わせた素材で作っている。目を凝らして見ると実はイントレチャートになっているスカートなど、とにっかうこまやかな技巧に息を飲む。もはやこだわりが変態的(笑)。トロピカルな葉っぱや新聞紙でできたようなバッグが登場するのですが、それも全てレザーです。
ショー後半を彩ったのは、ポンポンのような装飾のドレス。©︎IMAXtree/AFLO
R : もはや超絶技巧によるアート作品ですね。過去にも、革製デニムが話題とまりましたが、お得意のレザー使いは健在です!
C : コレクションの半分は継続のデザインで、残り半分が新しい提案。シーズンごとに脱ぎ捨てていくのではなく。何シーズンに渡って着続けても廃れない服を打ち出すマチュ―の姿勢も素晴らしい。
R : 今後は、旅シリーズを展開していくのでしょうか? ストーリーのように続いていく展開が気になる、という点でボッテガ・ヴェネタの次シーズンからも目が離せませんね。
【ETRO】空想の中の場所をコンセプトに、あらゆる要素をミックス
多様なプリント使いで見せたコレクション。胸には、キーモチーフとなったタコが。©︎IMAXtree/AFLO
C : ボッテガ・ヴェネタ同様に異国情緒を感じたのがエトロ です。”ETRO NOWHERE(エトロノーウェア)”をテーマに、想像力によって生み出すことができる場所がコレクションの舞台でした。あらゆる常識的なルールが覆される場所として、ファッションもNO RULE。エスニックなバイブスを運ぶ、アイコニックなペイズリーやエネルギッシュなフラワープリントを西洋的なデニムと重ねたり、ストリートテイストのニットキャップやサングラスと合わせたり。一見出会わなそうなアイテムたちが融合して新鮮な提案がみられました。
R : リラクシングなプリントアイテムをレザーで締めていたスタイリングが可愛かったです。
C : RE SEEでレザージャケットは、ディレクターマルコ・デ・ ヴィンチェンツォの今季の推しだと聞きました。シャツとドレスのバリエーションが豊富で、それこそ今後ブランドのパーマネントピースとして展開していく予感。新しい顧客のエントリー商材にもなりそうです。あとは、随所にタコのモチーフが散りばめられていて、ユーモアとオリジナリティが光っていました。イタリアでは夢の世界の門番であり、幸運のモチーフと言われているそう。マルコがディレクターに就任して2年目を迎える今季。ファンが増えつつある独自の世界観は、今後も発展させていって欲しいですね。
レザージャケットでプリントアイテムを引き締めた組み合わせは、参考にしたいスタイリング。©︎IMAXtree/AFLO
【FERRAGAMO】ウィットに富んだフェティッシュなデイリーウェア
スリーブにスリットの入ったジャケットは、ショーで目を引いたアイテム。フェティッシュでいて芯のある現代的な女性像を描いた。©︎IMAXtree/AFLO
R : フェラガモもクリエイティブ・ディレクターがマクシミリアン・デイヴィスになって2年目を迎えます。今季はどうでした?
C : スタンダードな中に、ウィットを効かせた洗練されたワードローブは個人的にも好きだし、現地での評判も高かった! 今季は、リネンやコットンのようなデイリーな素材を、サテンにボンディングしたり、レザーのように加工したり、と実験的に扱ったようです。親しみやすくウェアラブルだけど、間近でみると人さじの違和感がある、というようなバランスが絶妙でした。スリット使いや体のラインを美しく引き立てるシルエットなど、マクシミリアンお得意のフェティッシュなアプローチが、とても自然に取り入れられていたのも印象的です。
R : 大人の女性のための洗練されたワードローブが手に入るブランドとして、ますます人気を高めそう! 人気といえば、マクシミリアンが完成させた「HUGバッグ」は、春夏らしいキャンバスが新登場。その他にも、キャッチーなバッグ類が多く、注目の新型として、フェラガモのアーカイブのライターを模したクロージャーが特徴の「FIAMMA(フィアンマ)」もお目見えしていましたね。
多くのルックで、ブランドの核ともいえるバッグを手にしていた©︎IMAXtree/AFLO
【PRADA】クラフトマンシップへの敬意と、心浮き立つ軽やかなデザイン
プラダのファーストルック。シャツ素材のマニッシュなセットアップのボトムが、ヘルシーなショートパンツという意外性のあるバランス。ケープに用いられたグラフィカルな円形モチーフは、複数のルックで採用されていた。©︎IMAXtree/AFLO
R : ミラノのトレンドセッター、プラダ についても聞かせてください!
C : プラダのファーストルックには、毎シーズン高揚感を感じますよね。同シーズンのメンズコレクション同様に、「流動性」がキーワード。会場の天井からスライム状の液体が流れて落ちてくる演出も踏襲されていました。ミニボトムの連発や、透明感あふれるオーガンザのドレスなど、軽やかさが際立ったルックが多かったです。
R : ボッテガ・ヴェネタ同様にここでもフリンジが効いていましたね。春夏の一大トレンドに・・・!?
C : フリンジスカートをショートパンツと重ねるレイヤードはとてもキャッチー。フリンジに柄をプリントしたり、ビーズ刺繍を施すなどバリエーションも豊か。服作りの手法やテクニックに焦点を当てたという本コレクションらしく、技術力の高さがひかるアプローチも見られました。
R : どうしても気になってしまったのですが、人間の顔が上部についたバッグがありましたよね? 異彩を放っていました!
C : あれは、神話上の人物だそう。手彫りの留め具としてバッグにあしらわれています。1913年にミウッチャ・プラダの祖父であり、プラダ共同創業者のマリオ・プラダが考案したオリジナルのハンドバッグを再解釈した、コレクションのキーアイテムです。フィナーレでは、今季がラストコレクションとなったデザイン・ディレクターのファビオ・ザンベルナルディ氏が登場。ミウッチャの右腕として約40年間ブランドに在籍した人物です。会場はスタンディングオーベーションで彼を見送る、というそんなあたたかな一幕もありました。
透明感のあるドレスは、パステルカラーのバリエーションで登場。神秘的な美しさで人々の視線を奪った。©︎IMAXtree/AFLO
【DOLCE&GABBANA】媚びないセンシュアルで女性を賛美
ウエストのくびれが美しいドルチェジャケット。オールブラックでコーディネートし、官能的でありながらストイックな印象に。©︎IMAXtree/AFLO
C : イタリアのモードを牽引し、一貫して世界観を貫き続けるブランドたちも存在感を放っていたシーズンでした。ドルチェ&ガッバーナ は、「WOMAN」をテーマに成熟し、力強くも魅惑的な女性像を描きました。
R : 成熟した女性のためのエレガンスは、ドルチェ&ガッバーナの右に出る者はいませんね。カラーパレットが黒、白に絞られていたのも印象的です。
C : モノクロ写真や1960年代のポートレートに由来するそう。コルセットやランジェリー風、シースルー素材などセンシュアルな要素が多かったのですが、モノトーンでの提案で媚びないアティチュードを感じましたし、いっそう体の美しさを引き立てているように感じました。”サルトリアル”も、コレクションのキーとなっていてアイコニックな「ドルチェジャケット」がいくつかのバリエーションで登場しています。
R : 昨今はオーバーサイズジャケットブームが続いてきましたが、ウェストがキュッと絞られたアワーグラスシェイプは、改めて見ると本当に美しいですよね。
ラストを飾ったナオミ・キャンベル。媚びない色気を漂わせたランジェリールックを披露した。©︎IMAXtree/AFLO
C : そしてなんといっても観客が沸いたのは、ラストルックを飾ったナオミ・キャンベル! 今季ミラノのハイライトのひとつと言っていいほど、その堂々たるウォーキングに感動しました。ランジェリーライクなブラックのドレスをまとった姿は、コレクションのテーマである強く自信に満ちた女性像を体現していました。近年、ベテランモデルたちのカムバックが目立ちますがその中でも際立つ神々しいまでのオーラを浴びることができて光栄でした。
【EMPORIO ARMANI】幻想的なムードでファッションの心地よさ、楽しさを体現
シアーな素材のセットアップ。爽やかなカラーにゆとりのあるシルエットで心地いいムードを演出。©︎IMAXtree/AFLO
R : ブランドらしさを貫くという点では、ジョルジオ・アルマーニ氏の存在も忘れてはいけませんね。
C : 神秘的なメタリックカラーや豪華絢爛なクリスタルのドレスを披露したジョルジオ アルマーニも素敵でしたが、会場を幸福感で包んだエンポリオ アルマーニ も心に残りました。”そよ風にのせて”というポエティックなテーマらしく、軽快なデザインと幻想的な色使いが特徴的でした。ベアトップにショートパンツ、涼しげなシアー素材使いなどは、春夏というシーズンの訪れを待ち遠しい気持ちになりました。
R : 序盤はグレーやベージュなどシックな色から始まり、徐々にグリーン、ブルー、ピンクにパープルと虹のようなカラーパレットも見ていて気持ちがいいですね。
C : 後半は、ピンクやパープルを貴重としたドリーミーなドレスルックが登場。頭に巻いたターバンや、多連のビーズネックレスなどで、どこか異国情緒を感じるスタイルに仕上がっています。
R : そよ風に乗って最後は、どこか遠くの国に辿り着いた、なんてストーリーを想像させますね。
C : ランウェイのモデルたちが、笑顔で心地よさそうに歩いて行く姿も記憶に強く残りましたし、会場全体は晴れやかなムードも相まって、なんだか「イッツ ア スモール ワールド」を思い出しました(笑)。ファッションが人に幸せをもたらすことを体現していたように感じます。最後には、モードの帝王ジョルジオ・アルマーニ氏も登場し、豪華はフィナーレとなりました。
R : アルマーニ氏は、御年89歳! 90代に突入してからのクリエイションを見られるという意味でも楽しみですね。色々なムーブメントが見られるミラノ。来季も注目していきましょう!
多彩な色使い、煌めくビーズ。心浮き立つ要素が詰め込まれた、ショー終盤のルック。©︎IMAXtree/AFLO