2021年9月20日(日本時間)に迫った、第73回エミー賞の発表。ドラマファン待望の米テレビ界最高峰の栄誉を勝ち取るのはどの作品&俳優? 配信ドラマ全盛期において、多くの名作がエントリーに名を連ねるなか、海外ドラマ好きエディターが独断で選んだ、推し作品を紹介します。過去にレビューした作品とともにチェックして、この一大イベントを一緒に楽しんで。
今回ピックアップした3作品は、どれも作品賞&主演女優賞にエントリーされている実力派。そして、今の社会情勢を反映したテーマを取り上げています。事件を通して生きることの意味を問いかける『メア・オブ・イーストタウン / ある殺人事件の真実』、コメディでありながらメンタルヘルスやアルコール依存症の問題を提起する『フライト・アテンダント』、LGBTQをとりまく軌跡に迫る『POSE/ポーズ』。秀逸なスクリプトと迫真の演技に、観ればきっと、心を揺さぶられるはずです!
『メア・オブ・イーストタウン / ある殺人事件の真実』/ケイト・ウィンスレットは裏切らない! 観る人の日常に風穴をあける、イッキ見必須のサスペンスドラマ
あぁ、ものすごいものを観たなというのが、正直な感想。1話ごとに起こる、思わぬ展開、意外なオチ。再生ボタンを押すのをやめられず、一日で見終えてしまいました。
エミー賞16部門にノミネートされた、ノンストップサスペンス。やはり一番の見所は、主演女優賞候補にもなっている、ケイト・ウィンスレットの迫真の演技です。
ケイトが演じるのは小さな町の警察官、メア。すっぴん&ボサボサのひっつめ髪がデフォルトで、自分のことより事件解決を優先させる日々。そんなメアが、久々のデートのシーンで、おめかしするんですね。ヘアダウンし、ルージュをひくだけで、とたんにレディへと垢抜けます(乱暴な言葉遣いはママですが)。ケイトのブレイク作品といえば『タイタニック』の令嬢役。「きれいな人」なのに、外見になりふりかまわなくなってしまう理由やなりゆきがメアにはあったのだということを表していて。楽しいデートシーンなのに、なぜかこちらの涙腺が崩壊。なるほど、この演技の振り幅は、ケイトにしかできない役だわと深く納得しました。
ケイトの演技力と役作りには抜群の信頼をおいている私。今回も役作りに対するエピソードに事欠きません。セックスシーンではお腹のたるみをカットしないようにお願いしたこととか、プロモーションポスターのレタッチが過ぎたため撮り直したこととか、肉体的および感情的な「重厚さ」を表現するために太ももを鍛えた、etc. そしてそれらの努力が“根性”ではなく、作品を盛り上げる結果としてきちんと画面に表れるのも好感度大。
ちなみにデートの相手役は、『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』にて、ケイトと夫婦役を演じたガイ・ピアース。エミー賞の受賞歴のある実力派俳優です。ほか、“モブ”など皆無な豊かなキャラクター陣の迫真の演技も見物です。
「フーダニット(who done it)」作品として、犯人捜しを楽しめる作品ですが、ラストは“本当の犯人”とともに、この作品が示したかったテーマが明らかになります。受け取り方は人それぞれだけれども、今の時代にとても必要なもの、長い歴史において人々が探し求めているものだと、私は感じました。
サスペンス作品のお決まりの煽りコピーといえば、「みんな騙される」「衝撃のラスト」などがありますが、この作品のラストには、心底衝撃をうけました。ですのでどうか、ネタバレを含むレビューなどは一切断ち切って、初見で観ることをおすすめします。
© 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc. 『メア・オブ・イーストタウン / ある殺人事件の真実』U-NEXTにて見放題で独占配信中
★エミー賞の主要ノミネート部門★
リミテッドシリーズ/テレビムービー部門
作品賞
主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)
助演女優賞(ジュリアンヌ・ニコルソン、ジーン・スマート)
助演男優賞(エヴァン・ピーターズ)
STORY
ペンシルバニア州郊外の田舎町イーストタウンで、まだ幼いシングルマザーの少女の遺体が見つかった。刑事メア・シーアンは事件の捜査を進めるも難航。少女を取り巻く人々の関係性を調べるうちに、事件は思わぬ展開を見せはじめ……。
『フライト・アテンダント』/豪華声優陣による日本語吹き替え版にも注目! 洗練された絵作りで魅了する、ドタバタサスペンス
コメディ部門でイチ推しなのが、こちらの作品。原作はクリス・ボジャリアンの同名小説です。華やかな人生を楽しむが、実は過去のトラウマを抱えている……という、よくあるプロットでありますが、それが「え、なにこれ、面白い!」と、気がつけば毎日の日課に。
主人公キャシーの、事件の真相を追うシーンと自身の過去と向き合うシーンが、話が進む度に絶妙に絡みあい、より重層的な物語へと形成されます。エピソード4あたりからそれが本格化。ユーモラスや主人公を演じるケイリー・クオコの嫌味のない等身大の演技もあって、飽きさせません。
さらに、洗練されたコマ割、フラッシュバックの差し込み方など、編集もハイセンス。キャシーが働くインペリアルエアラインのユニフォームも素敵で、画面が華やかなのもいいですね。
主人公のはた迷惑&自爆キャラに賛否がわかれそうですが、彼女なりに人生を楽しもうと必死で、ときに愚かな判断をしてしまうリアリティに私は愛着が持てました。『ゲーム・オブ・スローンズ』のミキール・ハースマン、『ガールズ』のゾシア・マメットなど、脇を固める役者も手練れです。
なお、伏線が巧妙で、割と見落としていました。伏線回収で“おかわり視聴”するなら、日本語吹き替えがおすすめです。
というのも、日本語吹き替え版のキャストが超豪華なんです。伊藤静(『美少女戦士セーラームーン Crystal』セーラーヴィーナス役)、中井和哉(『ONE PIECE』ロロノア・ゾロ役)、諏訪部順一(『呪術廻戦』両面宿儺役)、新祐樹(『東京リベンジャーズ』花垣武道役)と、スター揃いですよ! 最近の海外ドラマの吹き替えは、売れっ子声優陣が名を連ねることも多く、また違った新しい楽しみ方を提示してくれますね。
©2021 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license. 『フライト・アテンダント シーズン1』U-NEXTにて見放題で独占配信中
★エミー賞の主要ノミネート部門★
コメディ部門作品賞
主演女優賞(ケイリー・クオコ)
助演女優賞(ロージー・ペレス)
STORY
パーティ好きで自由奔放な生活を送るフライトアテンダントのキャシー。ある日バンコク行きのフライトで出会った乗客アレックスとホテルで一夜を共にするが、朝目覚めるとアレックスが血まみれになっていて……。
『POSE/ポーズ』/80〜90年代、LGBTQのボール・カルチャーを等身大で描く、傑作ドラマ
3作品目は、多様性の時代、変化の時代の今こそ、観て欲しい、勇気とパワーをもらえる作品です。
第76回ゴールデン・グローブ賞ではテレビ部門ドラマ作品賞、プレイ・テル役を演じるビリー・ポーターがドラマ部門主演男優賞にノミネート。ゲイ&レズビアン・エンタテインメント映画批評家協会が選ぶドリアン賞では4部門を受賞の話題作が、今年のエミー賞に満を持してのエントリー。
時代は、マドンナの「VOGUE」が流行った、1987年のニューヨーク。LGBTQのボール・カルチャーを通して、社会問題を赤裸々と描きますが、エンタメとしてもきちんと完成度が高いところが素晴らしい。
ジェンダーが原因の差別、HIV・AIDS患者の差別、有色人種による問題など。あらゆる差別が描かれますが、どれも決して、同情をさそったり、勧善懲悪を描くわけでもありません。どうしようもない不可抗力な現実を突きつけられても、ただただ前をむいていく、MJ・ロドリゲス演じるブランカと、そのファミリーが本当にかっこいい!
制作総指揮は、『glee/グリー』『アメリカン・ホラー・ストーリー』などを手がけたヒットメイカーで、人気のクリエイターのライアン・マーフィー。
自身も同性愛者であることを公表しているマーフィーは、全米で半年間にもわたる大規模オーディションを実施し。50名以上のLGBTQの出演者が、物語をよりリアルに仕立てます。
哀愁を帯びたユーモアが、笑い泣きをさそったかと思うと、じめっとした空気をとっぱらうかのように、ボール・シーンで繰り広げられれる、煌びやかなヴォーギング・パフォーマンスはもう最高! 観ると元気が出る作品でもあります。
そして、娼婦役で出演したインディア・ムーアの美しいこと、美しいこと。インディア自身もノンバイナリー。トランスジェンダーモデルとして初めて、アメリカ版『エル』の表紙に抜擢される実力派です。2019年の「Fashion Media Awards」の授賞式の際には、アメリカ国内で殺害されたトランスジェンダーたちの遺影のイヤリングをつけて現れたことも話題にになりました。
課題は山積みですぐに状況が変わるわけではないけれど、世の中は確実に、前に進んでいます。ですが、振り返ればそこに、何人もの“ブランカ”の行動があったのかと思うと、考えさせられます。
全米では、シーズン3が配信中。日本での配信が待ち遠しい!
こちらの作品賞候補もおさらい!
第73回エミー賞は、U-NEXTにて独占ライブ配信!
配信開始日時:2021年9月20日(月)8:00~レッドカーペット、9:00~授賞式(予定)
※見逃し配信あり
https://www.video.unext.jp/lp/73rd_emmy_award
【海外ドラマ ナビゲーター】
エディターR
一日の終わりを、ワインとショコラとドラマで締めくくるのが愉悦のとき。“SATC”よりゴシップガール派。映像美と緻密な脚本ものが好物。最近は動画配信サービスのオリジナル作品のチェックに余念がない。作品でいうと、Netflix『ザ・クラウン』、Apple TV+ 『ザ・モーニングショー』などがお気に入り。ドラマに出てきた名台詞をコツコツとしたためていて、いつかどこかでアウトプットするのがささやかな目標。