韓国麻薬組織の秘話をベースとしたクライムサスペンス『ナルコの神』から、人生を変えられる“金の匙”を軸とした下剋上物語『ゴールデンスプーン』、そして定番の三角関係ながら大人がハマる恋愛要素をふんだんに取り入れたラブコメ『月水金火木土』まで、あらゆるジャンルの新作韓ドラが目白押し! 豊富な秋配信ドラマのなかで、特に注目しておきたい4作品を韓ドラ大好きライター&エディターが熱量たっぷりにリコメンド。
【韓国ドラマ ナビゲーター】
さすらいのライター 山崎敦子
『最高の愛 〜恋はドゥグンドゥグン〜』より韓国ドラマに魅せられ、日々最新ドラマをリサーチするさすらいのライター。さまざまなジャンルを渡り歩き、今では美容記事に携わること多し。サバイバルオーディションも大好物で、今の推しはENHYPEN。推しの俳優は絞りきれないほど多数。エクラwebでも韓流連載執筆中。
韓ドラ追っかけ班/エディターK
母の影響により、第1次韓流ブームの火付け役となった『冬のソナタ』から韓国ドラマの世界へ足を踏み入れる。「寝不足だけど幸せ」を合言葉に、約19年間あらゆるジャンルの韓流ドラマを観続けている。ドラマに加え、アイドル、コスメ、ファッションなど、日々韓国まわりの情報をキャッチアップ。永遠の推しは俳優ソン・ジュンギ。若手俳優の発掘が趣味の領域に。
『ナルコの神』/韓国映画界の“ドン”たちが大集結
ハ・ジョンウ、ファン・ジョンミン。この名前が挙がるだけで、K-シネマ好きならもはや垂涎ものなのではないでしょうか。『神と共に』シリーズのハ・ジョンウも、『新しき世界』のファン・ジョンミンも、その活動の舞台はほとんどが映画。その二人がドラマでがっぷり四つを組むわけですね。『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホさまの俳優生活32年目にして初のドラマ出演というニュースも話題を集めましたが、『イカゲーム』の世界的大ヒットを受けてか、最近は映画界の大物が続々とドラマに参戦してきていて、映像にしろ、ストーリーにしろ、演技にしろ、ますます韓国ドラマの映画クオリティ化が進んでいると、韓ドラファンとしては感慨もひとしおなのであります。しかもこのお二人、意外なことに本作が初共演。となれば、観ないという選択肢はもはやないわけで(個人的見解)。
舞台となるのは南米の小国スリナム。ファン・ジョンミンが演じるのは、その国で麻薬王として君臨したチョン・ヨファン。この麻薬王、実はチョ・ボンヘンという実在した人物で、韓国で詐欺事件の容疑者となったことから1994年に犯罪引渡条約が締結されていないスリナムへ逃亡、世界的麻薬組織と手を組み、麻薬密売組織のボスとして実際に君臨した人。彼の逮捕に躍起になる韓国国家情報院は、その麻薬王から被害を受けた民間人の事業家に潜入捜査の協力を要請し、2009年についに逮捕。そう、つまりは実際の事件がこのドラマのベースなわけです。で、この民間人の実業家に扮するのがハ・ジョンウ(役名はカン・イング)。ほら、ゾクゾクでしょ?
麻薬王ヨファンのキャラに神父という肉付けをするなど、緻密な脚色を加えた全6話は、その心理戦が息詰まるというか凄まじいというか緊迫感半端ないクライムサスペンス仕立て。K-シネファンならずとも一気見せずにはいられないはず。国家情報院チーム長パク・ヘス(『イカゲーム』)、チンピラ弁護士ユ・ヨンソク(『賢い医師生活』)、ヨファンの右腕の中国系韓国人チョ・ウジン(『ハピネス』)など脇役陣も素晴らしく、その名演をバックに繰り広げられる主演二人のタイプの違う演技の自在な応酬はやっぱり見もの。頭のてっぺんから足先まで全身ヨンファ憑依のファン・ジョンミンと、うちなる情熱が滲み出る自然体のハ・ジョンウと。必見です。(さすらいのライター山崎)
『ゴールデンスプーン』/本当に望むものとはなにか
ソンジェの除隊後復帰作!! もちろんおいしいのはそれだけでなく、大人気ウェブトゥーン原作の実写化である本作は、韓国らしい壮大な描き方で「貧富の差」に苦しむ人間たちの心の闇と欲望を、これでもかとありのままに映し出しています。あらゆる人物に共感しながら、ときにエキセントリックな言動に唖然とし、1話ごとにどんどん加速して面白くなるスピード感! ミスリードを誘発するエンディングに振り回され、漫画原作を生かしたアニメのようでもあり、日曜劇場のような復讐劇要素もあり、世代問わず楽しめるポイントが目白押し!
ちなみに邦題の『ゴールデンスプーン』は韓国語で「クムスジョ」。タイトルからすでに大きな闇が潜んでおりまして、韓国では「金持ちの子は金持ちに、貧乏人の子は貧乏に」との「スプーン階級論」という言説があり、裕福な家であれば金のスプーンの「クムスジョ」、貧しい育ちであれば泥のスプーンの「フッスジョ」などという残酷な表現をするのですね。日本でもいっとき「親ガチャ」の言葉が話題になっていたりもしましたが、本作も自分の出生と運命に葛藤し、もがき苦しむ高校生たちがメインであり、「もしクムスジョになれるとしたら?」が物語のキーワードとなります。
主人公は、人生逆転を夢見るイ・スンチョン(BTOB ソンジェ)。売れないウェブ漫画家の父に代わりアルバイトで家計を支えながらも、努力を決して怠らない頭脳明晰な高校生。学校でいじめられても「やり返したら金がかかる」と、脅威の損得勘定理論で必死に耐え忍ぶ日々。そこに魔法のクムスジョを持った一人の怪しいハルモニが……。「入れ替わりたい人の家で3回、このクムスジョでご飯を食べたら、その人の人生を生きられる」と。親も家族も捨てて手にしたいのは、お金か、希望か。スンチョンの言動を通して常に「自分ならどうする?」と問いかけられる感覚。感情がグワングワンと揺さぶられる!
スンチョンが入れ替わることを選択した、韓国を代表する大財閥トシングループの後継者で同じ高校に通うファン・テヨン(イ・ジョンウォン)。テヨンの婚約者でスンチョンに心惹かれるナ・ジュヒ(DIA チェヨン)。まるですべてを見透かしているような同級生オ・ヨジン(元MOMOLAND ヨヌ)を筆頭に、複雑に絡み合う現実世界。果たしてその結末は? 毎週の配信が楽しみで仕方ない個人的超おすすめ作品です!(エディターK)
『月水金火木土』/王道かつ大人が愉しめる新ラブコメ
パク・ミニョンオンニは、「完璧に見えて実は中身が若干イカれ体質で、少しの闇を抱えたヒロイン」を演じるのが抜群にうまいと思う次第ですが、皆さん的にいかがでしょう。本作も、大手イナグループの令嬢という顔を持ちながら「契約結婚マスター」を職業とするサンウン役が絶妙に合っている!! 複雑な過去が少しずつ明らかになるとともに、超絶堅物検事でサンウンの契約夫ジホ(コ・ギョンピョ)と、サンウンの本来の姿「ジェイミー」を知るスーパースター兼契約夫2のヘジン(キム・ジェヨン)との三角関係に予想以上に心を撃ち抜かれ、大人のラブコメとしていい塩梅保ってる〜〜な作品に仕上がっている、というわけです。想定外な場面から発動される「きゅん」に注意。
てか「契約結婚マスター」ってなんぞや?というと、大人になると周囲からの圧力、仕事上の接待など、あらゆる理由で、結婚や妻の存在を求められる人が多いことに目をつけたサンウンが、妻を職業にしてしまおうと始めた仕事。それぞれの顧客たちの悩みを聞き、解消するための手段として結婚するわけです。で、人によって期間は異なれど、用が済んだら契約解消=離婚という流れ。サンウンの戸籍はバツだらけです。まあ周囲から怪しまれるし、しかも結局身は一つなので、もちろん街中で元姑ズに出くわすこともあり、「イカれ女」認定済み。最初はこのぶっ飛んだ設定に、物語として面白くなるのか疑念を抱いたりもしましたが、そこはやはり韓国ならではの社会問題の取り入れ方で「アリなのかも」と思わせる演出になっているため、普通に楽しめて、大きな違和感がない! なにより本作のラブラインのバランスがめちゃんこいいのですよ! 最初「え、サイコ……?」と視聴者をドギマギさせるジホが、回を追うごとに愛おしい存在に変わっていく姿にも純粋に萌えますし、意外と一途でお茶目なヘジンが、急に見せる男らしさにまんまとときめきます。元夫(顧客)で現ルームメイトのグァンナムとの「親友」っぷりも癒される!
王道ラブコメの良さは残しつつ、新しい切り口でユーモラスに見せるなど、大人だから楽しめる仕掛けもたっぷりなので、ラブコメ好きはぜひ手を伸ばしてほしい。余談ですが、サンウン(ミニョン)のフライングヨガをしている姿があまりにも美しいので、これだけで観る価値ありありかもしれません。(エディターK)
『魔女食堂にいらっしゃい』/もし、願いが叶う料理があるとしたら?
食べたら“願いが叶う”という魔女が作る料理。もし人生どん底の憂き目に、そんな料理を出されたら、食べる?食べない? ちなみにどんな内容であれ願いは必ず叶います。しかも、今までに食べたことがないほどの美味……。そりゃあ迷わず「チャルモッケスミニダ(いただきます)」ですよね、当然。でも、条件が一つ。お金ではない対価を支払う必要が。それは、例えば声だったり、記憶だったり、指2本だったり……。さて、食べる?食べない? そんなちょっぴりスリラーなファンタジー仕立てのヒューマンドラマです。
主人公は、平凡に暮らすことが望みだったジン(ナム・ジヒョン)。必死に働いてきた会社を不当な理由でクビになり、彼氏からは破局宣言。挙句に母親と一緒に始めた食堂も詐欺で立ち行き困難に。そう、まさに人生どん底の憂き目。そんな彼女の前に現れたのが、願いが叶う料理を作る魔女ヒラ(ソン・ジヒョ)。ジンは魔女食堂で働くことを対価に、ヒラの料理を食べるのですが……という展開。願いの対価が食堂で働くことならお安い御用!なのですが、実は、そこにはドラマ縦軸となるある秘密が隠されており、それは観てのお楽しみ。そして、横軸を紡ぐのが魔女食堂を訪れる人生憂き目の人々。就職が決まらず金欠でニッチもサッチもな青年。ミュージカル俳優の夢を諦めて支えてきた彼氏から裏切りにあった女性。50歳になる息子が未だ独り身なのが不安でならないオモニ(母親)。さて、彼らの願いとは? そして、その対価とは? 物語が投げかけるのは、願いが叶えば人は幸せになれるのか……という実は人生の大難問。だからこそ、その選択の重みもずっしりと……。
そんな展開に一服の清涼剤となるのが高校生ギルヨン(チェ・ジョンヒョプ)。偶然出会ったジンに想いを寄せるようになるギルヨンもまた、イジメに遭うクラスメートを助けたことから、陸上で大学に行くという目標を絶たれ、魔女の料理を食することに。その願いと対価も気になるところではありますが、このギルヨンに扮するチェ・ジョンヒョプ、以前にも「時速493キロの恋」でご紹介したことがあるのですが、身長186cmの爽やかな制服姿(実年齢は29歳!)や目尻下がっちゃう人懐っこい笑顔はやっぱり癒し。彼の存在にホッと一息つきながら、人生の難問の答えをじっくり考えるというのも。(さすらいのライター山崎)