今年『哀れなるものたち』で２度目のオスカー受賞に輝いたエマ・ストーン主演のブラックコメディ『THE CURSE／ザ・カース』や、ブリー・ラーソン初主演作で、女性の働き方にもフォーカスしている『レッスン ㏌ ケミストリー』など、今観ておきたい“エンパワメント作品”を海外ドラママニアのライターがセレクト！ 心のエナジーチャージとしてぜひ視聴リストに加えてみて。
『THE CURSE／ザ・カース』／気鋭のクリエーターとのタッグで、 超過激な風刺劇に挑んだエマの俳優魂に脱帽
『ラ・ラ・ランド』に次いで、『哀れなるものたち』で2度目のオスカー受賞に輝いたばかりのエマ・ストーン。今やハリウッドを牽引する大スターでありながら、人懐っこい笑顔が魅力で、エマ演じるヒロインには思わず感情移入したくなりますよね。
そんなエマが主演を務めるドラマが『THE CURSE／ザ・カース』です。舞台はニューメキシコ州、新婚カップルのホイットニー（エマ）と夫のアッシャー（ネイサン・フィールダー）は環境に優しいエコ住宅で貧困にあえぐ街を活性化させるプロジェクトを進める不動産業者。TVプロデューサーのダギー（ベニー・サフディ）と組んで、そのプロジェクトをリアリティ番組で紹介して軌道に乗せようと奮闘中。だが、アッシャーが些細ないざこざで地元の少女に「呪ってやる！」と言われたことから、仕事も夫婦仲も狂い始めていく……。
本作は『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-』で注目のコメディアンのネイサン・フィールダーに、監督そして俳優として映画『オッペンハイマー』などで大活躍のベニー・サフディという気鋭のクリエーターふたりにエマが誘われて作り上げたブラックコメディ。3人は演じるだけでなく製作総指揮でも名を連ねています。クセ強な登場人物たちに加えて、リアリティ番組の舞台裏や人の善意・悪意を突っつき、爆笑シーンもありますが、毒っ気が過激で笑いも引きつり気味に。全米でも高評価を得る一方で、「居心地の悪さを感じる作品」という声も上がっています。とはいえ、なかなかリスキーな作品にもかかわらず主演し、本作の演技でゴールデングローブ賞にもノミネートされたエマ。彼女の俳優魂には脱帽ですね。
『レッスン in ケミストリー』／男社会では阻まれた科学者の夢を、料理の世界で実現した強きヒロイン
ブリー・ラーソンといえば、強い女性がハマリ役。オスカーに輝いた映画『ルーム』では母の愛の強さを体現し、近年はマーベル史上最強のヒーロー、キャプン・マーベル役でお馴染み。筋肉もバッキバキに鍛え上げ、昨年公開された『マーベルズ』でも痛快な戦いっぷりにしびれちゃった人も多いかもしれません。
初主演したドラマ『レッスン in ケミストリー』でもブリーはカッコよく、本作では製作総指揮も務めています。時は1950年代、女性は家庭に入るのが当たり前という時代に研究所で科学者として研究に勤しんでいたエリザベス（ブリー）。科学者の道を阻まれた彼女がひょんなことからテレビの料理番組のホストを務めることになり、専門知識を生かしたレシピを紹介しながら、主婦を軽視する国民にレシピ以上のものを伝えていく……。
もともと料理好きで、完璧なラザニアができるかできないかを何度も試作し、化学物質などの専門用語を使って説明するエリザベス。根っからの科学者という姿に説得力を与える、ブリーの演技力はさすが。そんな彼女が「女性の科学者といえば、キュリー夫人しかいない」という男性優位の社会に対する忸怩たる思いを体現しながら、ドラマは人種差別やテレビ草創期のメディアの在り方などさまざまなテーマも盛り込んでいるほか、クラシカルなファッションやインテリアなど見どころ満載です。ちなみに私は、エリザベスの良きパートナーとなるカルヴィンにハマってしまいました。演じているのは『トップガン マーヴェリック』で眼鏡のボブ役で話題になったルイス・プルマン。誰かに似ていると思ったら、そうでした、彼の父は映画『インデペンデンス・デイ』でヒューマンな大統領役を演じたビル・プルマン……でした。
『ポーカー・フェイス』 ／他人の嘘を見抜く力で事件を解決する 現代版・女性コロンボ
最後に紹介したいのは、『ポーカー・フェイス』です。前2作と違い、1話完結のミステリードラマですが、どこか懐かしさを感じるようなテイストで、こちらのヒロインも超個性的で変わり者というのがオススメポイントです。主人公のチャーリー（ナターシャ・リオン）には、他人の嘘をかぎ取る不思議な力があるんです。ところが、その力のせいで友人の死の真相を追求したために命を狙われ、全米中を逃避行することに。そして行く先々で一癖も二癖もある人物や奇妙な事件に巻き込まれていくというストーリー。
手掛けたのは、ダニエル・クレイグの主演でヒットした映画『ナイブズ・アウト』シリーズで知られるライアン・ジョンソン。本作は往年の人気ドラマ『刑事コロンボ』のように、物語の冒頭で事件の犯人もトリックも明かされていますが、どうやってこの謎を解くのかというのが見ものな“倒叙ミステリー”。そして、面白いのは謎を解くチャーリーが刑事でも探偵でもない、ただの一般人ということ。逃亡中に偶然立ち寄ったガソリンスタンドや、日銭を稼ぐために働いた牧場やロックバンドの世話係などで事件に関わってしまい、「嘘だね！」の決まり文句で犯人を追い詰める。警察ではないので犯人が必ず捕まえるわけではないけれど、因果応報で天罰が下ったり、皮肉な結末が待っていたりするというのが何とも言えない味になってます。
主演のナターシャ・リオンはNetflixで配信中の『ロシアン・ドール： 謎のタイムループ』などで知られ、製作総指揮に加えてエピソード監督も務めているという才人。しかも、毎回登場するゲストたちがエイドリアン・ブロディにジョセフ・ゴードン=レヴィット、ステファニー・スーなど豪華で、何かやらかしてくれそうな顔ぶれが集結。全米では大人気シリーズでシーズン2の製作が決定しています。サクッと楽しめるミステリー、観たら絶対、病みつきになります。
【海外ドラマ ナビゲーター】
前田 かおり
映画・ドラマライター。欧米に限らず気に入ったら中国、韓国など国も、時代も関係なし、完徹上等でイッキ見辞さず。ついつい観ちゃうのは法廷モノ、医療モノに犯罪サスペンス。近年で好きだったのは米ドラ『ザ・オールドマン～元CIAの葛藤』、韓ドラ『ムービング』。
