クールな見た目からはうかがい知れないけれど、胸の奥底は熱く燃えている。主演を務める大河ドラマ「青天を衝け」にかける思いを聞いた。
エネルギッシュで明るい大河ドラマに
不思議と青には縁がある。古くは「仮面ライダーフォーゼ」(’11)で青いスーツの仮面ライダーメテオを演じたことに始まり、最近も『空の青さを知る人よ』(’19)、『青くて痛くて脆い』(’20)と、タイトルに「青」という字を用いた作品への出演が続いた。
「確かに縁がありますよね。ただ、考えてみると、青がつく作品ってほかにもけっこうあるんです。青って空とか海を連想させるから気持ちいい感じがするし、“青春”みたいに夢や希望のイメージもあれば、“青臭い”みたいに未熟なイメージもある。いろいろと表現しやすいんだと思います」
そして、今年も「青」がタイトルにつく作品に出演する。2月14日から放送が始まる大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)だ。本作で吉沢さんが演じるのは、主人公の渋沢栄一。渋沢は「日本資本主義の父」と称され、新一万円札の顔としても注目される立志伝中の人物だ。
「実業家として成功したことはよく知られていますけど、実はそこに至るまでは決して順風満帆ではなくて、とにかく波瀾万丈の人生で面白い。その視点で渋沢栄一の生き方を描いたドラマはこれまでなかったと思うので、新鮮に楽しめると思います」
渋沢は、1840年、武蔵国榛沢郡血洗島村(現在の埼玉県深谷市)の農家に生まれた。倒幕の志士を志したのにまるで正反対の幕臣となり、幕府が倒れると今度は意に反して明治新政府に仕官することとなる。政治の世界で大暴れしたあと、33歳で民間人へと転身。その後は実業家として、銀行、保険、製紙、紡績、鉄道、海運、ガス、電気など、世の中に必要な分野を次々と手がけ、近代日本の礎を築いた。信念のために、たとえ形を変えてでも逆境を乗り越え、青天を衝くかのように高い志を持って未来を切り開いたその生きざまは実にエネルギッシュ。まさしく生涯青春の人だった。
「青春って若者だけのものではなくて、心のあり方みたいなことだと思うんです。激動の時代に高い志を掲げて生きた栄一は常に若い心を持っていた人。彼は91歳まで生きたので、ドラマでどこまで描かれるのかはまだわかりません。けれども、今までに経験したことのない長い人生を演じることになると思うので、そのときにどんな感情が生まれるのか、すごく楽しみです」
撮影は去年の7月に始まり、ここまで順調に進んでいるという。物語は、「血洗島を舞台にした青春記」と「江戸を舞台にした政治劇」が描かれ、このふたつの世界がだんだんと絡み合っていく構成となっている。
「今はまだ江戸に憧れながら農民の暮らしをしている場面を撮っているので、みんなでわいわいと楽しくやっています。見どころはいろいろあるんですけど、やっぱり江戸パートと血洗島パートが同時進行していく構成は面白いですよね。立場も責任も全然違うけれど、根本にある人としての苦悩みたいなものだったり、抱えている問題は意外とつながっていたりして、そこの描き方は注目してもらいたいです。あと、この大河はすごく〝明るい大河〟だと思うんです。明るくて、エネルギッシュで、生命力にあふれている。楽しく元気になれる作品なので、気軽に見てもらえたらうれしいです」
1年後はたぶん最強になっている!?
約1年前のインタビューで吉沢さんは、「最近はいい芝居ができたと思える瞬間がだんだん少なくなってきた」と語っていた。昔と比べてできることが増えて、自分の中でハードルが上がってきたため、そう簡単に満足することができなくなったのが理由だが、今回の大河では久しぶりに役づくりに迷ったという。
「何となくの自分の中のイメージみたいなものはあって、それは監督とも共有できているんですけど、組み立て方が違うというか、なかなかつかめなくて。最近は自分の中のレパートリーで知らないうちにやれちゃっている気になっていたんだと思います。監督にちょっと違うかなと言われて、あれ、僕、こんなに引き出しなかったっけってちょっとへこみました。でも、映画『キングダム』(’19)のときも、ミュージカルに初めて挑戦した『プロデューサーズ』(’20)のときもそうでしたけど、追い詰められた先に新しい何かが生まれることを経験しているから、燃えるんですよね。今回の渋沢栄一役は久しぶりに見ておけよという気持ちになりました」
クールに見えて、意外と中身は熱い。あからさまにメラメラと情熱の炎を燃やすのではなく、内に秘めた炎を静かに燃やすタイプである。赤い炎というよりは、青い炎。
「赤い炎よりも青い炎のほうが温度は高いですからね。けっこう熱いんです、僕(笑)。ただ、もうだめだ、だめだと思いながら必死にやって、気づいたら、めっちゃいいじゃんと言ってもらえるけど、自分ではどこがいいのかわからないので、何かヘンな追い込み方をしているよなって思います」
撮影はこの先もまだまだ続く。これまで経験したことのない長い道のりだが、不安はない。楽しみのほうが圧倒的に強いという。
「共演する役者さんはみなさんお芝居が素晴らしい人たちばかり。安心感がありますし、学ぶことも多いです。雰囲気もすごくよくて、本当に居心地がいいから、現場に行くのが毎回楽しみです。確かに長丁場ですけど、今のペースだと問題なくいけそうだし、この感じだとあっという間に終わっちゃうんだろうなって気がします」
では、1年後、大河をやり切ったあと、吉沢亮はどうなっているのか。
「もう最強になっているんじゃないですか(笑)。それぐらい、いろいろなことを経験させてもらっています」
大河ドラマ「青天を衝け」
約500もの企業の設立に携わった、近代日本を代表する実業家、渋沢栄一。幕末から明治へ。時代の大渦に翻弄され挫折を繰り返しながらも、緻密な計算と人への誠意を武器に、日本のあるべき姿を追い続けた渋沢の青春を描く。脚本は大森美香が手がける。2月14日(日)20時から放送開始(NHK総合ほか)。
帝国ホテル
今回の撮影を行なったのは帝国ホテル。1890年、渋沢栄一をはじめ、政財界人らの働きかけにより、近代国家を目指した日本の迎賓館として開業した。その後、ランドリーサービスやホテルウェディング、バイキングなど、数々の「日本初」「ホテル業界初」のサービスを導入。日本のベストホテルのひとつ。
Ryo Yoshizawa
1994年、東京都生まれ。映画『キングダム』(’19)で日本アカデミー賞ほか各映画賞の助演男優賞を受賞。大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)では主人公の渋沢栄一を演じる。今号の連載「吉沢亮のTAKE YOURSEAT」では、「青天を衝け」の演出を務める黒崎博さんがゲストに登場。こちらも合わせて一読を。