アンチゴージャス、アンチチープ
無印良品の思想を体感できるホテル
ホテル内で最も広い「タイプE」の客室
「なんだか家のようですね」。世界一号店の「MUJI HOTEL」の写真を見せた人から、何げなくこぼれた言葉。ホテルがあるのは、中国広東省深圳市に新しくできたショッピングモール「深業上城(Upper Hills)」の一角。30年前までは素朴な漁村だった深圳は、急激な発展を遂げて、高層ビルや高速道路がひしめく大都市に。絵に描いたような近未来感と、片隅に残る昔ながらの港町らしさ。初めて旅する混沌とした異国で、心の片隅にうごめく不安を打ち消してくれたのが、わが家のように迎えてくれるホテルの存在だった。もちろん普段の住まい以上に、静かな高揚感と開放感のある洗練された空間なのだけれど、旅の拠点となる客室に、日常生活で使用しているのと同じCDプレイヤーやカップやリネン類を見つけると、妙にほっとする。そういえば、衣類も自分で持ち込んだアメニティもノートもおやつのチョコレートも、旅行カバンの中身まで無印良品でいっぱいだ。暮らしになじむ日用品が、旅先では自分を支える頼もしいお守りのように思えるとは。十数年前、初めての海外旅行前に求めた無印良品のパスポートケースを大切に肩から下げて、好奇心の赴くまま地元の人が行き交う繁華街や緑が囲む公園を歩いた。
思いたてば誰もが気軽にどこへでも出かけることができ、旅することは日常の延長、暮らしの一部と言えるようになった今。旅は、与えられた計画をただ消費するのではなく、自ら体験を作り出す時間に変わりつつある。そうした需要にこたえるべく、無印良品が考えたホテルの形が、高額で過剰なサービスを取り払い、感じよく過ごせる旅の土台。ちょうどよい価格でよく眠れること。旅先の体と心を整える空間。全79室、5タイプの客室には、無印良品が監修した家具や、併設する無印良品の店舗にも並ぶ電化製品やタオルなど、あらゆる商品を使用している。
朝は燦々と光が注ぐ大きな窓と高い天井。夜の部屋をやさしく包む間接照明とドレープたっぷりのカーテン。タオルやシーツの肌ざわり。スイッチやコンセントの快適な配置。どこか懐かしさを覚える「MUJI Diner」の料理は、世界各国の“お母さん”直伝なのだそう。
旅先で得た心地よさを、日々の暮らしに持ち帰りたいと思うこと。シンプルだけれど、何よりの旅の収穫だ。
住所:中国広東省深圳市福田区華富街道皇崗路5001号 深業上城(UpperHills)内
+86-755-23370000
hotel.muji.com/ja/
※ 部屋タイプAで950元(税・サービス料込み)
※ 1元=約17円です(2月2日現在)。