ディトックス
「ル・ポールのドラァグ・レース」のシーズン5に出場。並みいるクイーンの間でも、類を見ない個性あふれるスタイリングが印象的。ポップなコスチュームを身にまとうクイーンが多い中、シックなセピアカラールックをまとって舞台に登場したエピソードは伝説だ。
引きこもりがちな少年を変えたドラァグ・パフォーマンスのパワー
ディトックスのドラァグ人生の始まりは、早くも10代前半の頃。だがその存在が知られるようになったのは、2013年の「ル・ポールのドラァグ・レース」シーズン5と2016年の「オール・スターズ・ドラァグ・レース」に出演したのがきっかけだ。昨年末、LAでディトックスこと、マシュー・サンダーソンに会って話を聞いた。彼はちょうどランチを食べ終わり、ペディキュアを塗ろうとしていたところだった。
番組出身者の中でも、際立ってファッションが好きなディトックス。フロリダ州オーランドに住んでいた幼い頃、のちにヴィンテージショップの経営者になる姉のヘザーとともにファッションに夢中になり、ふたりでファッションショーや、ドレスアップをしたパーティを開いて遊んでいた。そして15歳のとき。ティエリー・ミュグレーや空山基のアートワークが持つ世界観に着想を得て、初めて人前でドラァグ・スタイルを披露。まさに、ディトックス誕生の瞬間だった。
かつて本当の自分の姿を隠しいじめられっ子だった彼を変えたのは、パフォーマンスの持つパワーだった。昔からいつも強い女性に憧れていたというディトックス。「『ウィッグをつけた瞬間、ヒールを履いた瞬間に変身する』ってみんなよく言うじゃない。つまり、それらを性的で官能的な魅力をプラスするものって考えているってことよね」
しかし、ディトックス自身は、ヒールやウィッグに対して違う見方をしている。彼にとって、ドラァグは「鎧」なのだ。自分の身を守り、よりパワフルに演出するための。
そして、素晴らしいドラァグ・クイーンになるためには相当な教養が必要だ。歴代のクイーンはみな、発想のもととなる選りすぐりのイメージがパンパンに詰まった引き出しを持っている。時代や、文化の垣根を越えた幅広い知識がクイーンのスタイルをつくり上げているのだ。ディトックスのインスピレーション源について聞くと、彼の口からは機関銃のように答えが返ってきた。パフォーマンスのお手本はマドンナ、彼の永遠のアイコンだ。スーパーモデル風の佇まいはリンダ・エヴァンジェリスタを参考に。パフォーマンスは、彼の最大のインスピレーション源である女優のアンジェリカ・ヒューストンから。そしてコメディ要素は、70〜80年代に活躍した女優、マデリーン・カーンから学んだ。