価値ある椅子を手に入れたいならまず必要なのは、その知識。基本のQ&Aはヴィンテージと現行品、それぞれのよさを理解する手がかりに。
Q1 家具って値上がりすることあるの?
ヴィンテージ家具は流通する数が限られているので、人気が高まれば市場の原理で価格が上がっていきます。海外のオークションでは、時には椅子一脚が数百万円で取り引きされることさえあるほど。ただし、そんなふうに値上がりするのはほんのひと握りで、誰もが手を出せるものではありません。一方、名作の現行品や状態のいいヴィンテージ家具を手に入れて大切に使っていると、手放したいときに家具店に買い取ってもらえることがあります。稀少価値が認められれば、購入時と同等以上の価格で売れることもあるでしょう。その場合は、手放す時点での人気、流行、また家具自体のコンディションなどで価格が上下します。
ジャン・プルーヴェの「シテ」アームチェアは、1930年に発表された彼の初期の代表作。ヴィンテージはコレクター垂涎の稀少品だが、現在はヴィトラが復刻している。¥340,000~/ヴィトラ
Q2 ヴィンテージとリプロダクトの違いは?
ヴィンテージ家具とは、製造されてから数十年以上がたったものを指します。特に著名なデザイナーによる家具は、デザイナー本人やその権利継承者などが正規に認めたメーカーの製品のみがヴィンテージと呼ぶのにふさわしいものです。こうした正規品には、発表後の数年間しか製造されなかったものもあれば、現在までつくられ続けるロングセラーもあり、製造数が少ないほうが稀少価値が高くなります。一方、リプロダクトは「復刻品」であり、本来は廃番品を改めて製造したもの。しかし現在は、正規の現行品が存在しているのに、それを勝手にコピーした商品をリプロダクトと呼んで安価で販売することがあります。そのクォリティは、明らかに素材や技術が劣るものから、正規品と区別のつきにくいものまで千差万別ですが、「本物」でないことは確か。将来的に価値が上がることもありません。
Q3 正規品はどこで買えますか?
「ハーマンミラー」「カッシーナ」「アルテック」などのブランドの直営店や直営ショールームが最も安心です。また「アクタス」「ザ・コンランショップ」「シボネ」といった定評あるセレクトショップや、主要百貨店の家具売り場も正規品を取り扱っています。ネットのみで展開している店舗は、もちろん良心的なショップもありますが、低価格を強く打ち出しているところには注意が必要でしょう。ざっくりとした目印としては、正規メーカーのロゴがウェブサイトや製品に確認できるかどうか。これは、デザインのコピーが違法性を認められにくいのに対し、許可なくロゴを使用することは明らかに違法だからです。
アルヴァ・アアルトの「400 アームチェア タンク」¥536,000~/アルテック
Q4 ヴィンテージが狙い目なのは、どんな家具?
金属やプラスチックは美しい経年変化が起きにくいため、ヴィンテージ家具だからといって魅力が増すとは限りません。それに対して木を使ったヴィンテージ家具は、長い時間を経ることで素材感に味わいが出ます。現在の家具には見られない材木や仕上げが用いられることもあり、正規の復刻品もそこまでは再現できません。これはヴィンテージならではの価値です。またデザイナーのネームバリューも家具の価値を左右します。シャルロット・ペリアンやピエール・ジャンヌレのヴィンテージ家具が高額で流通しているのは、彼らが建築界の巨匠であるル・コルビュジエに師事していたことに関連しています。その点で、やはり20世紀を代表する建築家であるフィンランドのアルヴァ・アアルトの家具は、今後さらに人気が高まるかもしれません。
Q5 名作の現行品を育てることって可能ですか?
現行品を購入してから長く使い続けても、ヴィンテージ家具のような味わいが生まれるわけではありません。現在の家具の大半は、劣化しにくい素材や仕上げを取り入れていて、よくも悪くも経年変化しにくいからです。ただしオイルフィニッシュやソープフィニッシュで仕上げた木の家具は、自然に風合いが変化していきます。汚れがつきやすいため定期的な手入れは必要ですが、その代わりに育てる楽しみがあると言えます。
Q6 コラボレーションで価値は上がる?
ファッションデザイナーをはじめとして、異業種のクリエイターがコラボレーションする家具が増えています。企画ごとに販売数が限られることが多く、発売直後に完売してしまうものもあり、将来的には稀少価値が認められるかもしれません。近年は、ヴァージル・アブローがデザインした「イケア」の限定アイテムが、オークションサイトで数多く高額転売されたこともありました。しかしこうした製品は、復刻されたらオリジナルの価値も下がりそうです。本当に気に入って入手するならまったく問題ありませんが、投資目的で購入してもあまりメリットはないでしょう。
ミナペルホネン×フリッツ・ハンセンの「パッチワークセブンチェア」。¥165,000/ミナ ペルホネン
Q7 家具を買い替えたくなったら?
新しい家具を買うとき、手もとの家具を売りに出すのは選択肢のひとつ。欧米の著名な家具ブランドの製品や、安定した人気のあるヴィンテージ家具なら、買い取ってくれそうな店を探しましょう。白金にある家具店「ビルディング」は、目利きのオーナーが厳選して扱う新旧のユーズド家具に定評があり、委託販売の相談にも乗ってくれます。またヴィンテージ家具は、まずは購入したお店に相談するのがいちばんです。一方、インターネット専門の買い取り業者の場合は、正規品の価値をきちんと認識しているリサイクル店を選びましょう。ちなみにコピー品の中古家具の市場価値はきわめて低く、これはコピー品を避けるべき理由のひとつでもあります。
Q8 ブランドお墨つきのヴィンテージ家具ってありますか?
フィンランドのインテリアブランド「アルテック」は、2006年から「2nd Cycle(セカンドサイクル)」という活動をしています。これはフィンランド国内で長く使い込まれた自社製品を買い取り、必要に応じてリペアを施してから、直営店で販売する仕組み。最近、日本のArtek Tokyo Storeでも2nd Cycle 商品の取り扱いが始まりました。気になる価格は、現行品より割高に設定されるようですが、再販売の手間を考えると良心的。ヴィンテージ家具が使われてきた時間に相当の価値があることを、ブランドが認識している証しでしょう。世の中のサステイナビリティ意識の高まりとともに、家具について価値観が大きく変わってきたように感じます。
土田 貴宏/Takahiro Tsuchida1970年北海道生まれ。2001年からフリーランスのライターとして活動。国内外での取材を通して、家具やインテリアを中心に、 幅広いデザインについて専門誌などに執筆している。東京藝術大学非常勤講師。