「2gether」の大ヒットも受け、さらに大旋風を巻き起こしているタイBLドラマ。幅広い人間を虜にしている同ジャンルの魅力とは? 熱烈ファンふたりが語る!
「肩肘はらずに見られる上質なエンタメです!」
by P’月食 Twitter: @eat_the_moon__
「SEVENTEEN」などを推すK-POPオタク。「2gether」からどっぷりハマり、タイBLドラマブーム初期にアップした解説noteも話題に。Twitterでも日々萌えを発信中。
「2gether」の世界的ヒットにより、日本でも認知度が急上昇したタイBLドラマ。新型コロナウイルスの流行でコンサートなどのアイドル現場が激減した時期に、癒やしを求めて“タイBLドラマ沼”に入った人が多かったのではないかと語るのが、K–POPオタクでもあるP’月食さんだ。
「このドラマにハマっている人は周囲だとK–POPのオタクが多く、ジャニーズや映画俳優のファンの方も楽しんでいる印象です。私の場合、オーディション番組を固唾をのんで見守るのに疲れていたのもきっかけで。肩肘はらずに見られる良質なエンターテインメントとして、タイBLドラマはぴったりでした。特に『2gether』は、配信に合わせ、みんなで実況できたのも楽しかった」
今ではBLドラマの他作品やSNSを日々追いかける、“沼”の住人だ。Brightさん、Winさんのコンビからもわかるように、タイでは作品内だけでなく、インタビューやSNSを通じてプライベートでの関係性を見せてくれる俳優が多い。しかもどんどん発信されるから、1日でも休むと追いつかない。
「以前インタビューで、Brightさんが『Winさんに出会ってから、よく笑うようになった』と語っていたのに、本当に感動しました。私が楽しんで見ている作品が、彼らにとっても唯一無二のものになっているのが尊くて。タイではBLドラマが若手俳優のキャリアのひとつとして根づきつつあるので、その成長過程を応援できるし、作品への思い入れが強いのも素敵だなと思います」
視聴者との距離の近さも見逃せない。なんと、ファンがイベントなどで俳優を撮った写真に「使っていい?」と本人からDMが来たりするのだ。
「俳優のみならず、スタッフや監督もSNSやインタビューで『今続編撮影中だよ!』『あのシーンの意図はね……』なんて気軽に教えてくれるんですよ。それも、何でも深く知りたい性分のオタクにはたまらないですね」
ファンの立場からも、タイドラマを世界に知ってほしい!という情熱が強い。「『2gether』が盛り上がったのも、YouTubeのユーザー字幕機能で各国語訳をつけてくれた人たちがいたからこそです。日本の情報番組でタイBLドラマが取り上げられた際には、タイのファンも沸いていました」
最近は、タイ語の勉強も始めたという月食さん。「かなり苦労していますが、もっとたくさんの情報が追いたくなって……。日本語の情報も多くありますから、初めは言語まで覚えなくていいと思いますが(笑)、向こうの慣習や大切にしていることを知っておくと、より深くジャンルを楽しめるのではないかと思います」
ちなみに月食さんのイチ押し作品は「TharnType」。続編の撮影を、SNSで見守っているところだ。「主演のGulfさんはこちらが初主演作品。キャリアのある相手役のMewさんと、二人三脚で濃厚なラブシーンに挑んでいくのが最高に萌えるドラマです! タイBLドラマと一口に言っても、作品ごとにラブシーンの濃度もストーリーのテイストも違うので、まずは間口の広い『2gether』を見て、自分の好みを知るといいかもしれません」
「『こんな社会にしたい』というメッセージも」
by 前川直哉 Twitter: @maekawa_naoya
ジェンダー/セクシュアリティ研究。福島大学特任准教授。ひとりのゲイ男性としてもタイBLドラマを愛する。主著に『〈男性同性愛者〉の社会史』(作品社)など。
ジェンダー/セクシュアリティを研究する社会学者の前川直哉さんも、「2gether」から“沼”に入ったうちのひとり。
「タイで実写BLドラマが数々制作されていることは、以前から研究者仲間で話題になっていたんです。私も『2gether』を軽い気持ちで見始めて、クォリティの高さに圧倒されました。今は仕事以外の時間ずっと、タイBLドラマを見ています(笑)」
「ボーイズ・ラブ(BL)」文化は今や世界各地に広がり、多くの女性たちが男性同士の恋愛フィクションを創作・愛好している。その描写に違和感を抱いたゲイ男性による批判の歴史もある一方で、BLを愛読しエンパワメントされてきたゲイ男性も多いと、前川さんは指摘する。
「BLには同性愛嫌悪など現実のゲイ男性を取り巻く課題と真摯に向き合い、それを変えていくような可能性を感じさせる作品も多くあります。タイBLドラマにも、現実の価値観への問いかけが、説教くさくなく盛り込まれているのが魅力です。たとえば『2gether』では、周りの友達がタインとサラワットの交際を、最初は少し引いて見ているけど、次第に見守り、応援するようになる。同性間の恋愛の場合、周りに自分の恋バナすらできないことも多いですから、その描写がうれしい。もっと踏み込んで、家族との関係や同性婚、カミングアウトなどについて触れている作品もある。メインカップルも周りも、同性同士の恋愛を通じて、変わっていくんです。当事者に限らず多くの視聴者が、現実のゲイ男性が実際に社会で直面する課題に、関心を持てる作りになっていると感じます」
また、演じているキャストたち本人にも、実際のLGBTの権利について積極的に発言する気風があるという。
「キャストのみなさんがSNSやインタビューで、同性婚制度など現実の社会のあり方について、真剣な発言をすることも多いんですよ。ドラマに『こんなふうに社会を変えたい』というメッセージが込められていて、俳優さんもそれを自分の言葉で発信してくれるのが素晴らしいですよね」
タイに限らず、実写BLドラマが増えているアジアドラマ市場。日本からのファンも増えてきたが、前川さんは最近、「フィリピンBLドラマ」にもハマっているのだとか。
「『GameBoys』という、新型コロナウイルスの流行下、俳優さんたちの自宅をつないで、リモートで制作されたドラマがあるんです。Twitterで評判を聞いて知りました。実写BLドラマの情報はインターナショナルなファンコミュニティで活発に交換されていて、先達のみなさんが本当にいろいろなことを教えてくれるんです」
萌えは世界の共通言語。キャプチャをツイートするだけで「わかる!」とうなずく海外のファンとつながることができるのも、醍醐味だ。
「作品のハッシュタグを追うと、世界中の人がいろいろな言葉で登場人物たちの恋愛を応援している。それもうれしいですし、何より素敵な男性たちが愛を紡いでゆく姿を見ているだけで幸せな気持ちになります。いろんな人に見てほしいですね。睡眠不足には気をつけて!(笑)」
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