石の美しさを生かす、"玉"のスピリットを知る
オム・イクピョンさんは、翡翠や琥珀など、さまざまな天然石を使って作品を生み出す玉工芸の名手。韓国の歴史ドラマ「トンイ」や、映画『スキャンダル』(’03)などの装身具制作も手がけ、作品には玉独特の気品とツヤ感、そして心に響く温かみが感じられる。家庭を支えるために玉工芸を始め、技術を磨いて約50年。その才能と努力が認められ、多くの受賞歴やソウル市指定の無形文化財第37号に選ばれるなど、高い評価を得た。
イクピョンさんが指導する玉工芸のワークショップは、勧農洞のソウル無形文化財教育展示場で開催中。昌徳宮の近くに位置し、韓国の伝統的な雰囲気も楽しめる。教室では勾玉からリング、花や蝶のブローチヘッドまで幅広い作品の制作が可能。
「ダイヤ工具と呼ばれる切削工具を使用して玉を削り出し、その後流水を当てながら研磨工具でひたすら磨いていきます」
2024年度からは、イクピョンさんの娘婿も参加。気軽に質問できると受講者からも好評で、将来的には講座を任せたいとのこと。また鍾路3街駅のほど近くに位置するカウォン工房には、普段使いのアクセサリーから数カ月を要する大作まで幅広いアイテムが揃い、それだけでも一見の価値あり。特に注目したいのは、壁側にディスプレイされた茶器や箱。やわらかな光を放つ白が特に印象的で、何よりもそのシンプルなデザインに魅かれる。イクピョンさんの作業スペースもあり、運がよければ技術を直接見ることができる。
「1990年代初め、有名なコレクターでもある学者から、"単純なものから美は生まれる"と言われて。衝撃でしたよ」
玉そのものの美しさを引き出すために、鍛錬を重ねたというイクピョンさん。「過度な装飾を避け、シンプルに仕上げる作風に落ち着きました。今でも引き算は難しい。常に挑戦です」とほほえんだ。