『エベレスト 3D』と『ザ・ウォーク』は、これまでにないタイプの3D映画です

 

 


3Dのおかげで映画館で映画を見る人がまた増えた、とも言われていますが、3Dがただのアトラクションとかスペクタクルになってるとちょっと残念ですよね。もっとその映画の面白さの核とつながっているようなものが見たい。その意味で、これまで個人的には『ヒューゴの不思議な発明』や『天才スピヴェット』のような、工夫や仕掛けのアイデアに満ちたストーリーにいちばん向いている気がしていたのですが、最近、「普通なら絶対に行かない/行けない空間を体感させる」こともできるんだなあ、という3D映画を二本見ました。

『エベレスト 3D』は96年に起きた遭難事故について書かれたいくつかの本、証言をもとに映画化されています。なのである意味、世界最高峰を目指すアマチュア登山家たちが大金を払ってツアーに参加する「商業登山」の問題を背景に、エベレストに登頂することの過酷さと危険が刻々と描かれる。実際にエベレストの丘陵地帯で撮影されているので、もちろん風景は神々しいほどなのですが、それよりも零下数十度の氷の世界で、酸欠になりながら一歩一歩進んでいく――そのつらさがひしひしと感じられて、まさに息苦しくなるほど。登山映画は数あれど、あんな極限状態を再現するのに3Dが効果的だったとは……意外でした。

もう一つの『ザ・ウォーク』も実話で、2008年には『マン・オン・ワイヤー』としてドキュメンタリー映画にもなっています。74年、ニューヨークで完成したばかりのワールド・トレード・センターのツインタワーの間で綱渡りをしたフランスの大道芸人、フィリップ・プティの物語。当然、クライマックスは110階のビルの間に張られたワイアーの上を彼が歩く場面なのですが、これ、あまりにもリアルで、高所恐怖症の人にはお尻がムズムズする、なんかではすまないかも。実際、いっしょに見ていた人はずっと身じろいでいました。

で、ちょっと思ったんですが、きっとどちらも3Dをツールにして、「そこにいて初めてわかること」を映画にしようとしてるんですよね。それを観客に伝えようとしている。例えば、私は不思議なことに『ザ・ウォーク』を見たあと、『マン・オン・ワイヤー』では感じなかった解放感、ひろびろとした自由みたいなものを感じました。なぜ彼がそんなことをしたかったのか、空中を歩くことにどんな意味があったのかを垣間見たような。逆に言うと、『エベレスト 3D』ではあまりにつらくて「それでも山に登りたい人の気持ちがわからない!」と思ってしまったのですが、すでに山に魅せられている人が見るときっとまた違う感想があると思います。とにかく、どちらの映画も「それがわかるか、わからないか」を知るには大きな画面で見てみないと始まりません。ぜひ、映画館に足を運んでみてください。

『エベレスト 3D』
監督/バルタザール・コルマウクル
出演/ジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ジョン・ホークス、ロビン・ライト

 

『ザ・ウォーク』
監督/ロバート・ゼメキス
出演/ジョセフ・ゴードン・レヴィット
2016年1月23日(土)、全国公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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