ゴールデングローブ賞コメディ部門で作品賞を受賞したリドリー・スコット監督は、壇上で「コメディ?」と首を傾げていましたが、まあそう分類されたのもわからなくはないのが『オデッセイ』。実際、私も「火星に取り残された男のサバイバル・ストーリー」とだけ聞いていたので、見るまでは『キャスト・アウェイ』や『アポロ13』みたいに重厚な感じなのかな、とか、最近『白鯨との闘い』に『アンブロークン』とハードな漂流ものが続いたからちょっときついな、とか思っていました。
ところがマット・デイモン演じる主人公は、火星でイモの栽培を始めてしまうのです。
原作はインターネットで発表された小説「The Martian」。「The Martian」は壮大な物語ながら、主人公のお気楽さというか、のんきなキャラも面白さの一つなのですが、それをマット・デイモンがうまく演じていました。こういう人のほうが非常時は強いかも、と思わせるのです。映画タイトルは『オデッセイ』ですが、翻訳された小説の日本題『火星の人』のほうが、そのとぼけた感じが出ているかもしれません。
ちなみにあのイモはジャガイモかさつまいもか、という話を人としたのですが、どうもジャガイモっぽいですね。設定が「感謝祭のイモ」だったので、私はさつまいもだと思ったのですが。たとえば『ゼロ・グラビティ』なんかとは違ってそういう話もしたくなる、いい意味で「軽さ」がある本作。SF大作で科学的なディテールもたくさんあるのに、火星に親しみが持てるのです。コメディって、ちょっとした褒め言葉だと私は思います。
『オデッセイ』
監督/リドリー・スコット
出演/マット・デイモン、ジェシカ・チャスティン、キウェテル・イジョフォー
2016年2月5日、スカラ座他全国ロードショー
© 2015 Twentieth Century Fox Film
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。