この映画の原題は「Love Is Strange」。邦題の通り、筋としては確かにちょっとした出来事の連続で生活が二転三転してしまう話なのですが、テーマとしてはやっぱり原題通り、「愛って不思議だよね」ということを語ろうとしてる映画だと思います。しかも二人の間の愛だけじゃなく、その愛が他の人たちにも影響して、静かに、力強く生きつづけていくという不思議。中心となるカップルをアルフレッド・モリーナとジョン・リスゴーという名優が演じるのも魅力です。
2015年6月にアメリカ最高裁で同性婚が認められたとき、それまでずっと暮らしていても結婚できなかった年配の男性カップル、女性カップルが幸せそうにしているのを見て、心から嬉しくなったのを覚えているのですが、ベンとジョージもそうやって39年間連れ添ったのちに結婚したNYのカップル。長年築いてきた人間関係と心豊かな暮らしを改めて祝うのですが、正式に結婚したことでなんとジョージが解雇されてしまいます。
老境にして収入が減り健康保険もなくなった(このへんリアルで、他人事とは思えません)二人はアパートを手放すのですが、次の家が決まるまでそれぞれ別の友人宅に厄介になることに。当然、急に生活が変わったベンもジョージも、二人を受け入れる周りもストレスを抱えます。友人夫婦はそのせいで口論が絶えなくなるし、夫婦の子どもにもしわ寄せが来る。それまでじっと我慢していたのに耐えられなくなり、ジョージがベンの居候先にやってきて泣きくれるシーンは痛切です。
自分のことでも周りを見ていても悪いことは重なるというか、ネガティヴなことは短期間に連鎖してしまうものですが、逆にポジティヴなことはゆっくりと、長い目で見なければわからないことが多い。ジョージとベンの運命もそこからさらに揺れ動くのですが、この映画は最後まで見てやっと、二人の愛情がどんなふうに二人を支え、周りを変えたかがわかってきます――温かさと、少しの悲しさとともに。愛ってヘンだけど、すごい。そんなシンプルな感情にたどり着く、繊細で深い映画でした。
『人生は小説よりも奇なり』
監督/アイラ・サックス
出演/ジョン・リスゴー、アルフレッド・モリーナ、マリサ・トメイ
全国公開中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。