配信サービスで見られる映画やテレビドラマについては、「もうこれ以上オススメしないで!」と思っているリミットオーバーな人も多そうで控えていたのですが、ベン・ウィショー主演の『ロンドン・スパイ』はまた別です。国営放送なのに大胆な番組作りをするBBCによるこのドラマ、昨年イギリスで放映された時には過激なセックス描写が話題になりました。私はというと最初、「スパイとの恋」という古風な設定をゲイの男性同士にしたところに惹かれて見はじめたのですが、実はまったく違う立場、違う境遇にある二人の男性が恋に落ち、その恋が激しすぎるあまりに政治や国家にまで波紋が広がる――という、まさに最近稀なほど古風で、悲劇的なラブストーリーでした。
『チャイルド44』の小説家トム・ロブ・スミスは、2010年にロンドンのフラットで男性の変死体が発見され、彼がMI6の職員だった、という実際の事件を出発点にして脚本を書いたそうです。ただ彼の小説がそうであるように、『ロンドン・スパイ』も謎解きとしての切れ味よりは、登場する人々の人生の重さやエモーショナルな描写が持ち味。ベン・ウィショーとエドワード・ホルクロフト演じる二人の運命的な出会いなんてほんと強烈です。これっていま、男女の恋愛だったら逆にやりにくいんじゃないでしょうか。
でも私がもっとすごいと思ったのは、二人の恋に巻き込まれる周囲のキャラクターまでがそれぞれ深く、重く描かれているところ。演じるのはジム・ブロードベントやシャーロット・ランプリング、マーク・ゲイティスといったラスボス級の俳優たちです。それでなくてもイギリスのドラマはベテランの演技が重厚なのに、今回はそれぞれが「業の深さ」みたいなものを背負っていて、イギリス社会から追いやられてきたこともわかってくる。特に映画『さざなみ』に続くシャーロット・ランプリングの怖さときたら! 早く続きが見たくはなると思いますが、私としてはこういう濃厚なドラマはやっぱり週に一度のペースでじっくり楽しむべき、という気がします。
『ロンドン・スパイ』
クリエイター・脚本/トム・ロブ・スミス
出演/ベン・ウィショー
Netflixで配信中
https://www.netflix.com/title/80048568
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本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。