世界で一番売れているロマンス小説家。その小説はハリウッドのスターやスター候補を主演にして次々映画化され、ヒット続出。批評家のウケが悪くても、ニコラス・スパークスの映画界のステータスはまだまだ盤石です。実際、見る前からこちらも安心して、「今回のカップルにはどんな運命が待っているのか」を楽しむ準備ができているほど。
ただ私としては、案外自覚しにくい「女心を知る」ために見ている気がします。女性からの圧倒的人気を誇るニコラス・スパークスの物語には基本設定がいくつかあって、まずヒロインが自立していること。相手の男性は大抵孤独で、犬を飼っていて(ここ重要ポイントです)、田舎で素朴な生活を送っている。舞台の多くはノースカロライナ州で、自然の美しい水辺の町が背景になっています。まさに癒しとロマンチックのミックス! 他にも細かい設定がいちいち女心をくすぐるようにできていて、「なるほど」と感心してしまうのです。
しかも、物語のどこかにあっといわせるような仕掛け、飛び道具がある。『きみに読む物語』(05)はストーリーの全体がそうだったし、『セイフヘイヴン』(13)のラストにもびっくりしました。公開時に「愛の奇跡」みたいなコピーが出てくるのは、ここが理由です。
『一枚のめぐり逢い』(12)ではザック・エフロンが初めて大人っぽい顔を見せましたが、今回、ベンジャミン・ウォーカーとテリーサ・パーマーを抜擢して映画化されたのが『きみがくれた物語』。原題は『The Choice』で、人生における選択がテーマです。とはいえ若い二人がケンカしながら惹かれ合うところにはコミカルなタッチがあったり、今回は男性だけでなくヒロインも犬を飼っていて、それが恋のきっかけに!
仕掛けの局面では生死をかけた重い選択の話になって、ややバランスが悪い気もしましたが、先に挙げたニコラス・スパークス映画の条件はたっぷり満たされていました。ただ毎回見た後感じるのは、恋愛や運命への感慨より、「あんな場所で動物と暮らしてみたい……」という気持ちだったり。私自身まだ女心が足りないようです。実は男性が見るといろいろ参考にできるはず、とも思うのですが、どうでしょうか。
『きみがくれた物語』
監督/ロス・カッツ
出演/テリーサ・パーマー、ベンジャミン・ウォーカー
8月13日、渋谷シネパレス他にて全国ロードショー
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本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。