アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピット=ブランジェリーナ。世界一有名と言ってもいいこのカップルが離婚、というニュースには驚きとともに、「そういうことだったのかな」とふと思いました。というのも二人が主演し、監督とプロデューサーを務めた新作『白い帽子の女』はまさに夫婦の危機がテーマだったからです。
存在がメジャーすぎて海外では公開当時「セレブのハネムーン・ムービー」として揶揄されたりもしていましたが、私としては実はクリエーターとして野心的で、センスもある二人が別の局面で挑戦した作品だと思っていました。アンジェリーナは『最愛の大地』(11)や『不屈の男 アンブロークン』(14)で戦地で起きた人間ドラマを監督し、プロデューサーとして実績を持つブラッドは近作では『それでも夜は明ける』(13)や『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)を製作。その上で『白い帽子の女』は、二人にとってプライベートな出来事と感情を取り上げながら、それをスタイリッシュに描こうとした作品なのだ、と。
南仏のホテルにやってきたアメリカ人作家の夫と元ダンサーの妻。お互いにわかりすぎているからこそ壊れかけているような夫婦は、海辺の美しい村に滞在しながら、昼は別々に行動し、会話もあまりありません。そこに現れるのが隣の部屋にやってきた新婚フランス人カップル。彼らの存在が徐々に二人の感情を動かし、完全に壊れてしまうリスクとともに、「やり直し」のチャンスもまたやってくるのです。
実際は南仏ではなくイタリアのマルタ島で撮影されたそうですが、私が思い起こしたのもイタリアの監督、ミケランジェロ・アントニオーニが男女を描いた映画の数々や、『太陽がいっぱい』(60)のような地中海映画。アンジェリーナが着るコスチュームも当時ソフィア・ローレンやジャンヌ・モローが着ていたような美しいドレスやセットアップです。さらに物語としてこの夫婦が失ったものを取り戻そうとする過程もちょっとヨーロッパ的で、結構したたかに、若く純粋な隣の恋人たちを利用するのです。気の毒なメルヴィル・プポーとメラニー・ロラン……。
この映画にアンジェリーナとブラッドの関係がどれだけ投影されていたかなんて誰にもわかりませんが、普通のカップルと同じように倦怠も喪失も経験しながら、でもそれに向き合っていた気がしました。何よりクリエーターとして刺激しあえていたはずのカップル、ブランジェリーナの解散は、やっぱりとても残念です。
『白い帽子の女』
監督・脚本・出演/アンジェリーナ・ジョリー・ピット
出演/ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、メルヴィル・プポー
9月24日、シネスイッチ銀座、渋谷シネパレスほか全国ロードショー
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本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。