誰かとおしゃべりする楽しさを、リンクレーター映画では感じます

リチャード・リンクレーター監督作『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』については何度か書いたので、自分でもしつこいなーと思いつつ、今週公開なのでリマインダー。それになんと、この新作に合わせ彼の旧作『スラッカー』(91)、『バッド・チューニング』(93)、『6才のボクが大人になるまで』(14)も上映されるとのこと。まだ見ていない人がいれば、ぜひおすすめしたいのです。

リンクレーター映画の魅力はたくさんあれど、私はやっぱり会話、ダイアローグが大好き。以前ドイツ映画『ヴィクトリア』を紹介したとき「何も起きないのは、幸せな時間」と書きましたが、彼の映画にも出来事というより、いろんな人がいろんなシチュエーションで話す楽しさが詰まっています。とはいえ気の利いたセリフが連続するというよりは、ほとんどうだうだしゃべっているだけ。でもそこにはっとするような瞬間が訪れて、そこにいる人たちの記憶に刻まれるのがわかるのです。

どれも群像劇で、プロットはあまりありません。『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』で描かれる大学野球部の共同生活では、ジョックスのバカバカしいくらい野郎なやり取りに大笑い。『バッド・チューニング』にはもっといろんなトライブの子たちが登場するのですが、男子に負けず、チアリーダーら女子の会話がリアルです。12年間かけてひとりの少年の成長を撮影した『6才のボクが大人になるまで』では子どもたちにも、イーサン・ホークとパトリシア・アークエットが演じる父母の心情にも共感するはず。どの映画でもだんだん、彼らと話しているような気持ちになるんですよね。

個人的にもう一度映画館で見直したいのは彼のデビュー作で、90年代インディペンデント映画のランドマークともなった『スラッカー』です。ある人とある人が出会い、話し、また別の人と繋がっていくだけのゆるーい映画ですが、そこが不思議に面白い。リンクレーターらしいアーティスティックなのに楽観的で人懐っこい感覚はここから始まり、『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』に至るまでずっと息づいています。



『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』
監督/リチャード・リンクレーター
出演/ブレイク・ジェナー、ゾーイ・ドウィッチ、グレン・パウエル
11月5日より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー
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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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