『ノーマ東京』はその料理に負けず、作っている人がユニークです



ドキュメンタリーでは人の「素顔」が見られるのが魅力、と言いますが、素顔って、結構その人のプライベートな時間の顔を指すことが多い気がします。SNSに溢れている画像や映像も主にそういう瞬間。でも私は案外人が仕事に向かいあっているときの表情に興味があります。逆に言うと、プライベートにはないその人らしさがそこにはある。加えて個人だけでなく、集団として人々がどんなふうに反応しあい、どんなプロセスを経て成果を生むのかにも好奇心がそそられます。

昨年のドキュメンタリー映画『ノーマ、世界を変えるレストラン』(15)はその好奇心を満たす一作でもありました。デンマークのレストラン、ノーマが北欧料理というコンセプトでフード界を揺るがし、世界一と名指されるまで。シェフのレネ・レゼピの型破りな人となりも、彼に振り回されながらも長所を発揮し、斬新なメニューを作りだす周りの人々も個性的で、ちょっとスティーヴ・ジョブズとアップルのことを思いだしたりもしました。

ノーマがレストランを休業し、2015年に期間限定でマンダリン・オリエンタル東京に乗り込んできた日々を撮影した『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』では、その人間関係がさらに濃厚に描かれます。レネのちょっとした暴君ぶり、それに応えようと自分を追い込んでいく人々。クリエイティヴな集団のあり方の難しさとやりがいの両方を観察できます。彼らが食材を探しに訪れる日本各地では、彼らの目を通して新しい日本を発見することも。この人たち、どんどん森の奥に入って草や土を味見したりするんですよね。直接採取! 最後に登場する料理の数々はこの映画では素敵なデザートで、メインはあくまでプロセスなのです。

もう一本、おすすめしたいドキュメンタリーが『TOMORROW パーマネントライフを探して』。女優メラニー・ロランが共同監督した環境問題についての作品はフランスで大ヒットしました。温暖化やエネルギー問題、経済による環境破壊……そういったテーマでは、えてして「自分にできることなんかない」という暗い心持ちになってしまいがち。でもこの映画は、まさにそういう人に向けて作られています。「そうじゃない、できることはある」と感じさせるさまざまな提案が具体的に紹介されているので、ポジティヴになれる。そしてここでも、「世界を変える」ために顔を上げ、働いている人たちの明るさと強さが印象に残ります。



『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』
監督/モーリス・デッカーズ
出演/レネ・レゼピ、ラース・ウィリアムズ、トーマス・フレベルほか
12月10日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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TOMORROW パーマネントライフを探して
監督/シリル・ディオン、メラニー・ロラン
出演/シリル・ディオン、メラニー・ロラン、ロブ・ホスキンスほか
12月23日、渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。