現役俳優のランキングがあったら、この人は絶対ベスト3に入ります



サッカー選手の2016年ベストランキングを見ていて、ふと思ったのです。これ、俳優だったら誰になるだろうと。サッカー選手は数試合で活躍するだけじゃダメで、シーズンを通して評価されます。コンスタントにトップレベルのパフォーマンスを見せ、チームを助けなきゃいけない。逆に俳優は同じ年に公開される複数のいい映画に出ると、賞ではかえって票が割れてしまいます。それで、ここ数年で一番コンスタントに素晴らしい作品に出演し、素晴らしい演技を見せている俳優は誰だろう、と考えたのです。

私の頭にすぐ思い浮かんだのが、イザベル・ユペール。63歳の彼女の最近の仕事はさまざまな役柄を自在に演じていて、深く、しかも軽やかです。円熟期と呼ぶにはモダンなキレもあり、まさにトップ・パフォーマンス。2015年日本公開された『間奏曲はパリで』はコミカルで可愛らしく、昨年は『アスファルト』と『母の残像』で若手監督と組みました。来日したフランス映画祭で上映されたのは『愛と死の谷』。そして2017年春に公開されるミア・ハンセン・ラブ監督作『未来よ こんにちは』では、本当に彼女なしには作品が成立しないような演技を見せています。

イザベル・ユペールが演じるのは哲学教師のナタリー。彼女には離婚、母の死、仕事の停滞と思いがけない事態が次々訪れます。こういうとき大抵の映画では女性主人公の人間関係の変化や感情の揺れがメインになりますが、ナタリーの場合はちょっと違う。彼女は何よりまず「考える人」、経験や学んできたことが思想として根幹にある人なのです。だからこそ強く、柔らかく孤独を受け止める。このしなやかさはイザベル・ユペール自身の美質でもある気がしました。

しかもカメラは止まることなく流麗に流れ、自然の美しさが生きていく力を与えてくれる。「ああ、こういう映画が見たかったんだ」と改めて気付くような一作。イザベル・ユペールは、サッカーで言うところの「ゲーム・チェンジャー」、ひとりで物事を一変させてしまう人なのだと思います。




『未来よ こんにちは』
監督/ミア・ハンセン=ラブ
出演/イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ
2017年3月下旬 Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma




『母の残像』
監督/ヨアキム・トリアー
出演/ガブリエル・バーン、ジェシー・アイゼンバーグ、イザベル・ユペール




『アスファルト』
監督/サミュエル・ベンシェトリ
出演/イザベル・ユペール、ジュール・ベンシェトリ、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。