家でリラックスするときの映画って、私の場合、普段は配信サイトで探し出した日本未公開のロマンチック・コメディやティーンムービーだったりします。でもお正月はハッピーでクラシックな名作がいいなーと思い、ひさびさに『メリー・ポピンズ』(1964)を見返しました。それがとても楽しかったばかりか、いくつかの映画に繋がって豊かな気分になったのです。
東風に乗ってやってくる不思議なメリー・ポピンズの物語には、辛口なところもあります。彼女が乳母となるバンクス一家は、妻のウィニフレッドが女性参政権運動に夢中という設定。これって実は、もうすぐ公開される『未来を花束にして』での過激な活動家=サフラジェットのことなんですよね。そして『メリー・ポピンズ』の映画製作過程をドラマ化した『ウォルト・ディズニーの約束』(2013)を観た人なら知っているように、夫のミスター・バンクスには原作者、P・J・トラヴァースの体験が反映されています。厳格で仕事にかまけ、子どもは人に任せきりなミスター・バンクス。トラヴァースが父との悲しい記憶をこの物語でどう救ったのかを知ると、『メリー・ポピンズ』が一層感動的になる。ただ、ミュージカルとなった映画では何より素晴らしいのがシャーマン兄弟の楽曲! 「チム・チム・チェリー」や「2ペンスを鳩に」、舌を噛みそうな「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」。私は今年の初めしばらく、気づくと鼻歌で「お砂糖ひとさじで」を歌っていました。苦いお薬もお砂糖があれば飲みやすくなるよ、というチアフルな曲です。
『ラ・ラ・ランド』が各賞を席巻し、ミュージカル旋風を起こしている2017年。現在製作中の『メリー・ポピンズ』続編ではエミリー・ブラントがメリー・ポピンズ役です。公開はまだまだ先ですが、このキャスティングには納得。今年はどんなに大変なときも、小さな「お砂糖ひとさじの魔法」を忘れないようにしたいと思います。
『メリー・ポピンズ』
監督/ロバート・スティーヴンソン、ハミルトン・S・ラスク
出演/ジュリー・アンドリュース、ディック・ヴァン・ダイク
『未来を花束にして』
監督/サラ・ガヴロン
出演/キャリー・マリガ、ヘレナ・ボナム=カーター、ベン・ウィショー、メリル・ストリープ
1月27日、TOHOシネマズシャンテほか全国公開
『ウォルト・ディズニーの約束』
監督/ジョン・リー・ハンコック
出演/エマ・トンプソン、トム・ハンクス、ポール・ジアマッティ
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。