会うとモジモジ居心地悪そうだったり、普段着は決まってスキニー&Tシャツだったり、クリステン・スチュワートという人は『トワイライト』シリーズで得た名声やトップスターのイメージに反発しているようなところがあります。でも演技ではまったく恐れを知らず、ファッショニスタとしてハイブランドを着ると誰よりグラマラスに着こなしてしまう。その対比というか、シャープな切れ味と凄みは圧倒的。彼女のその部分をどの映画より引き出したのがオリヴィエ・アサイヤス監督の新作、『パーソナル・ショッパー』です。
映画自体、恐れを知らずジャンルを逸脱し、常識のラインを超えるような作品。クリステン演じるモウリーンはパーソナル・ショッパー――セレブのためにショッピングする人、というより、撮影やイベントのためにメゾンからサンプルやジュエリーを借りたりしているので、個人付きスタイリストのような存在でしょう。パリのファッション業界で働く彼女はボーイッシュなパンツ姿でバイクにまたがり、街を走っては雇用主の豪華なアパルトマンに服を届けています。
でも、その雇用主の知らない顔がモウリーンにはある。彼女はファッション・センスだけでなく霊媒としても感覚が鋭く、パリに滞在しているのも急死した双子の兄と交信するため。あえて「向こう側」へのドアを開けた彼女の携帯には、奇妙なメッセージが届きはじめます。そして起きる殺人事件……これはホラーなのか、心理スリラーなのか、それとも悲しみにくれクライシスを迎えた女性のポートレートなのか?
「見えるもの」がすべてのファッション界と、「見えないもの」が主役のスピリチュアルな世界の間で宙ぶらりんになる感覚のなか、本作はアサイヤスの映画としても「え?」と驚くような場面があります。そして、そんな仕掛けを超えて目が離せないのがクリステン。目の下の隈も濃く、弱った姿をさらしながら、ぞっとするような鋭さ、美しさも見せるのです。カジュアルな服を脱ぎ、着てはいけないドレスを着るときの変身ぶりといったら! 前作『アクトレス』(14)に続くこの監督とのコラボレーションから、ものすごい俳優になってきました。
『パーソナル・ショッパー』
監督/オリヴィエ・アサイヤス
出演/クリステン・スチュワート、ラース・アイディンガー、シグリッド・ブアジズ
5月12日、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
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本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。