『歓びのトスカーナ』で孤独な女性が見つけるもの


群像劇『人間の値打ち』(2013)も面白かった、パオロ・ヴィルズィ監督の新作『歓びのトスカーナ』。前作に続き、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキが飛び抜けて美しいカリスマを放っています。彼女とミカエラ・ラマッツォッティの逃避行は、イタリア版『テルマ&ルイーズ』(91)と呼ばれているそう。

ベアトリーチェ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)とドナテッラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)の二人は、トスカーナにある精神診療施設に入れられています。高級ブランドで装うベアトリーチェは躁気味で、虚言癖あり。そんな彼女がおせっかいを焼くのが、体にタトゥーを施し心を閉ざしているドナテッラ。女王様とゴスっ娘のような、見た目も性格も両極端な彼女たちは施設を抜け出し、車を盗んで旅を始めます。

90年代に精神病院を廃止したイタリアの社会状況を背景にしながら、描かれるのは「誰にも理解されなかった」二人の心の変化。とんでもなく滑稽な場面も、悲痛な場面もありつつ、彼女たちを追い詰めていったのが子どもの頃からの「孤独」だということがわかってきます。そして、おたがい反発もしていた彼女たち自身それに気づき、心を通わせる。セリフも出来事も満載の饒舌な映画に、静かな安らぎが訪れる瞬間です。

喜怒哀楽が激しく、豊かなのはイタリア的とも言えますが、ベアトリーチェとドナテッラはむしろ普通なら人生のどこかで諦めてしまうような情熱を持ちつづけた人。だからこそ傷つき、バランスが崩れたのかも、とも感じました。正気とされる人は周りに妥協できるだけなのかも、と。狂気とのボーダーラインで「真実」を演じきった二人に、拍手をおくりたいと思います。



『歓びのトスカーナ』
監督/パオロ・ヴィルズィ
出演/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ミカエラ・ラマッツォッティ
7月8日、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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