可愛いだけの猫モノには「ブーム便乗!」と思い、逆に猫が可哀想な目に遭うと耐えられず。猫好きにとっては、流行すればするほど本でも映画でも実は作品との出会いが難しくなっている気がします。なので、これもおそるおそる観にいきました。トルコ生まれの監督が故郷イスタンブールの猫たちを撮り、アメリカでヒットした『猫が教えてくれたこと』。ところが猫を観にいったはずが、心に残ったのはそこに暮らす「人」だったのです。
考えると、猫はどこでも猫らしく生きているので、それを人がどう見て、どう感じるかが場所によって違うだけなんですよね。このドキュメンタリーの舞台は東西文化が混じり合い、古いものが新しくなりつつある街、イスタンブール。人々は変わる街の中で、まだ猫と自然な距離を持ちながら暮らしています。その接し方、「この猫はこうなんだよ」と観察を語る言葉に、人々の個性も出てくる。私としては、猫を世話することで心の傷を癒している人たちが印象的でした。精神的に落ち込んでいるときにえさやりを始めた男性。何十匹もの猫を家に入れながら、それでも最初の猫を亡くしたつらさを語る女性。その気持ちは、わかりすぎるほどわかってしまいます。
きっと人も猫も、シビアに生きているのは同じ。でも、そこで笑ったり、のんびりしたりするのを人に思い出させてくれるのが猫なのです。『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き』でも、とんでもなく幸せな気持ちになりました。こちらでは、徹底的に猫が主人公。人の姿はあくまで背景で、街や自然の中で生きる猫の「強さ」「美しさ」をカメラが粘り強く追いかけます。思うんですけど、猫の優美な動きや豊かな表情を撮ることにかけては、ほんと岩合光昭さんが世界一なんじゃないでしょうか? 雄猫リッキーがどんどんカッコよく見えてくるのは、まさにマジック。「何より猫が見たい!」という人には、やっぱりこっちの方がオススメです。
『猫が教えてくれたこと』
監督/ジェイダ・トルン
出演猫/サリ、ベンギュ、アスラン・バーチャン、サイコパス、デニス、ガムシズ、デュマン
11月18日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち』
ディレクター/藤原光暁
出演/岩合光昭
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。