『ソーシャル・ネットワーク』(2010)での双子役は衝撃でしたが、以来、彼の美貌にうまくハマる役があまりない気がしていたのです。アーミー・ハマー、31歳。確かにガイ・リッチーの『コードネームU.N.C.L.E.』(2015)のKGBスパイはスタイリッシュだったし、先ほど公開された『ノクターナル・アニマルズ』でのハンサム夫は、エゴイスティックな空気を放っていました。でも、「アーミー・ハマーだからこそ」と言えるような役は、『白雪姫と鏡の女王』(2012)までさかのぼるのかな、と思ったり。あの映画のおバカなプリンス・チャーミングはウサギの耳をつけて、激カワでした。
でも、ここに来て「これはハマリ役!」とうなずく作品が出てきました。お正月大作の裏で公開されるアートムービー、『ジャコメッティ 最後の肖像』です。アーミー・ハマーが演じるのは有名彫刻家ジャコメッティの友人のアメリカ人作家、ロード。彼はパリ滞在中、絵のモデルになるのを引き受けたばっかりに、ジャコメッティのわがままやジレンマに付き合わされる羽目になり、滞在がじりじり延び、「永遠に終わらないんじゃ……」と焦り、悩みます。
そんなコミカルな面もありつつ、圧巻なのはジャコメッティの創作プロセス。アトリエに来たロードを椅子に座らせ、ポーズを取らせ、じっと見つめてからカンバスに向かう――この一連の動作を毎回儀式のように執り行うのですが、そのたび画面がアーミー・ハマーの顔のどアップになるのです。まさに彫刻のような造形で、美的価値を存分に活かすと同時に、その映像が重要な意味を持っている。この使い方は新しい、と思いました。
もうハリウッド大作も背負えるスターとなった彼ですが、2017年から2018年は小規模だけれどアーティスティックな映画の公開が続いていて、いい仕事をしています。一番楽しみなのが、来年4月公開の『君の名前で僕を呼んで』。予告編を見るだけで、17歳の少年がアーミー・ハマー演じる年上の美青年に一目ぼれするのに納得。「イタリアのひと夏の恋」はすでに賞レースでも話題で、アーミー・ハマーが俳優の格を上げたのは間違いありません。
『ジャコメッティ 最後の肖像』
監督/スタンリー・トゥッチ
出演/ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、トニー・シャルーブ
2018年1月5日、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
『君の名前で僕を呼んで』
監督/ルカ・グァダニーノ
出演/アーミー・ハマー、ティモシー・シャラメ
2018年4月公開予定
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。