日本では残念ながら公開が夏の終わりですが、この夏いちばん痛快で、すかっと楽しめるのが『ワンダーウーマン』。スーパーヒーローものでは『スパイダーマン:ホームカミング』も最高だけれど、彼はまだ一人前になろうと頑張るティーンエイジャー。カッコよさではガル・ガドット演じるワンダーウーマンが上なのです。
思えばここ最近のスーパーヒーローは悩んでいたり、怒りを抱えていたり、仲間割れが起きたり。でもワンダーウーマンことダイアナの美質は純粋でまっすぐで、正義感に燃えているところ。これは原作の心理学者、ウィリアム・モールトン・マーストンによる「女性の方が正直」という観察や、彼の周りにいた賢明で強いフェミニストに影響されているそうです。さらにワンダーウーマンのコスチュームには、彼のボンデージ嗜好が反映されているという話も……。
でも映画ではその露出度を逆手にとって、ダイアナが第一次大戦下のロンドンで服をショッピングする場面もあったりします。セルフリッジのデパートでコルセットを試着し、「こんなきつい服じゃ戦えない」と言い放つ彼女。ダイアナが生まれて初めて知る男性(クリス・パイン)がいきなり裸になるシーンがあるのも、従来の男性ヒーロー映画を風刺しつつ、二人のキャラクターがわかる仕掛けになっていました。戦地では誰よりも強く、勇敢に戦うダイアナ。でも同時に自分の理想が崩れるのを経験します。その経験から彼女がもう一度自分を取り戻す過程がていねいに描かれるのも、恋愛がサイドストーリーではなくその過程の不可欠な部分になっているところもいい。
こんな映画ができたのはやはり、女性監督のパティ・ジェンキンスが手がけたから。シャーリーズ・セロンにオスカーをもたらした『モンスター』(2003)で知られる人ですが、実は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013)を降板したこともあります。その彼女がようやく実現したスーパーヒーロー映画で、女性監督として史上最高のヒットを放ち、マーベルに押されていたDCコミックの勢いまで取り戻すとは! 彼女がこのターニング・ポイントを刻んだことには、ちょっと胸が熱くなるのです。
『ワンダーウーマン』
監督/パティ・ジェンキンス
出演/ガル・ガドット、クリス・パイン
8月25日、全国ロードショー
© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。