2018.04.04

恋は、人は、とても難しい。ハンガリー映画『心と体と』

2017 (C) INFORG - M&M FILM
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2年ほど前のコラムで、アイスランド映画『好きにならずにいられない』(2015)について書きました。40代の内気な男性が一つの恋によって心のドアを開く物語。ハンガリーの女性監督による『心と体と』も、孤独な男女のラブストーリー。美男美女が運命的な恋に落ちるのもいいけれど、不器用な人たちがもどかしく、でも切実に殻を破ろうとする話にはやっぱり自分を重ねて引き込まれてしまいます。

本作の舞台はなんと食肉処理場です。片腕が不自由なエンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)は代理職員としてやってきたマーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)が気になる。でも頑なな彼女は世間話をしようとしても素っ気なく、コミュニケーションが苦手そう。ところがある事件の過程で、この二人が毎晩同じ夢を見ていることがわかります。そこからだんだん、観客は彼ら(と、その周りの人々)について、想像しながら考えていくことになります。

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二人が見ているのは鹿の夢。そこでは二頭の鹿が無言で寄り添い、森の中を歩き、一緒にいる。ところが現実のエンドレとマーリアは相手の言葉を誤解し、すれ違うばかり。私自身、動物と暮らしているとそのシンプルでオープンな感情表現を見習いたいと思うことがよくあります。人間は気取ったりめんどくさがったり、しかも「暗黙の了解」みたいなのが多すぎるんですよね。相手の気持ちを推し量ろうとして、それが自分の感情を縛ることもある。

エンドレとマーリアがどうやって自分の外に出ようとするのか――その過程は優しくユーモラスで、とても痛々しい。映画も繊細で詩的なイメージに溢れながら、時折処理場の残酷な現実が映されます。同様に二人の恋愛には痛みも、リアルな性欲も含まれている。そこがいい。たぶんこれはステレオタイプを超えて、恋という気持ちの難しさを描いた映画。静かでパワフルな作品は、2017年のベルリン映画祭で最高賞を受賞しています。


『心と体と』
監督/イルディコー・エニェディ
出演/アレクサンドラ・ボルベーイゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキ、エルヴィン・ナジ
4月14日より、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開


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映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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