『レディ・バード』でジョン・ブライオンが作曲したちょっとセンチメンタルで、温もりのあるサウンドトラックを聴いていると、いくつかのシーンがはっきり浮かんできます。“レディ・バード”とは、シアーシャ・ローナン演じるサクラメントの高校生が自分に付けた名前。彼女は東海岸の大学に憧れ、故郷での最終学年を家族や親友と過ごし、初めての恋やセックスを体験します。物語というよりもささやかで親密で、でもとても大事な瞬間が集められている。自分が高校生だった頃を思い出す人も多いはず。
私が思い出したのは、母と服を買いに行った帰りに自意識バクハツで泣きだしてしまった時のこと。この映画でも、レディ・バードと母親の関係が中心なのです。距離が近いからこそ、しょっちゅうケンカしてしまう二人。ローリー・メトカーフ演じるこの母親が、ステレオタイプのいいお母さんじゃないところもいい。「正しいんだけど一言多い」のがレディ・バードにはカチンとくるんですね。母娘の複雑さをリアルに描けるのは、さすが女性監督、と思いました。
脚本を書き、初監督を務めたのは『20センチュリー・ウーマン』(2016)など女優としても活躍するグレタ・ガーウィグ。ちなみに、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメが高校生バンドのイキったギタリストを演じているのですが、彼には思春期のグレタがかなり投影されているそうです。ちょっと意外。でも、「こういう男の子、いたいた」と笑っちゃいました。
ただやっぱり、誰よりも印象的なのがシアーシャ。『ブルックリン』(2016)に続いて、彼女の年齢でしか演じられない若い女性の自立を可愛く、みずみずしく演じています。子どもの頃から、どの映画に出ても内面の強さ、正直さがそのまま輝いているシアーシャが、シュプール7月号のカバー・ガールです。
『レディ・バード』
監督/グレタ・ガーウィグ
出演/シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ
6月1日、TOHOシネマズ・シャンテほかにて全国公開
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。