この映画の原作は、マリヤッタ・クレンニエミによるフィンランドの児童文学。実はそれ、私が小学生の頃いちばんと言っていいくらい夢中になった本なのです。何度も図書室から借りてくるので、根負けした母が買ってくれたほど。小さな女の子、オンネリとアンネリが「バラの木夫人」から家を買って暮らしはじめるというお話で、何よりも「ふたりの女の子が住むのにぴったりの家」の間取りや家具、服、冷蔵庫の食べ物に至るまで、文と絵で描かれた可愛いディテールにワクワクしていました。
その印象が強すぎたせいか、映画ではその描写が案外短くてちょっとがっかり。まあ、映像で見せられるので当たり前ですね。ストーリーはそこから、オンネリとアンネリがご近所の人と知り合い、ある事件に遭遇し、ハラハラする映画的な展開に。ふたりの夏休みは不思議でファンタジックで、同時にとても現実的でもあります。
というのも、この話ではオンネリとアンネリがその生活を選び、実現させた理由もちゃんと描かれているのです。ふたりの両親は愛情がないわけではないけれど、それぞれ忙しかったり、自分のことで手いっぱいだったりで、子どもがいなくなったことに気づかない。「お金」も主なテーマで、家を買うお金が手に入ったいきさつも説明されるし、お金を貯めたり使ったり、という会話がしばしば出てくる。オンネリとアンネリは自活しているのです。風変わりながらも親切なまわりの大人たちは、絶妙の距離でそんな彼女たちを助けている。
いま思うと、そんな「子どもの自活物語」に憧れていたところがいかにも自分らしくて、笑ってしまうのですが、人はそれぞれ好きなように暮らしていいんだ、という自由さを感じ取っていたのかも。その原則を人々が認め、お互い尊重しているのも、北欧らしい社会観だと思います。本も映画も、ぜひ楽しんでください。
『オンネリとアンネリのおうち』
監督/サーラ・カンテル
出演/アーヴァ・メリカント、リリャ・レフト
6月9日、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国ロードショー
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。