科学的に認められてはいないものの、飛行機内で映画を観ると「泣きやすい」という説があります。英語では「AALS(Altitude Adjusted Lachrymosity Syndrome)」と呼ばれているほど。高度の変化による催涙効果、とでも訳せるでしょうか。私も機内で観たキアヌとシャーリーズの映画『スウィート・ノベンバー』(2001)でびっくりするほど泣いた経験があるので、なんとなく納得しています。飛行機で飲むアルコールが回りやすいように、もしかすると感情的に映画が効きやすくなるのでは、と。
もう一つ経験したのは、本。何年か前にヤングアダルト小説『ワンダー』を機内で読んだときに大泣きしてしまったのです。でも、そのあと翻訳書で再度読んだときも、今回の映画でも泣いてしまったので、高度じゃなくやはり作品の力? 『ワンダー』は遺伝子疾患で生まれたときから顔の手術を繰り返した少年、オギーが初めて学校に通う物語です。
小説では語り手はオギーだけでなく、学校の子どもたちや家族の視点の章もあります。映画でもオギーの周りの人々が細やかに描かれる。私が好きなのはオギーの姉ヴィアと、その親友ミランダのストーリー。ヴィアは両親の負担にならないよう、いつも我慢していて、ミランダにはまた別の思いがある。世界は誰かの周りを回っているのではなく、一人ひとりが主人公なんだ、という語り口がとても誠実。
オギー役のジェイコブ・トレンブレイをはじめ、子どもたちの演技が素晴らしく、心に残ります。監督は自らの小説『ウォールフラワー』(2012)の映画化で初監督した、スティーヴン・チョボスキー。あの映画のまっすぐさが、『ワンダー』でも生きています。
『ワンダー 君は太陽』
監督・脚本/スティーヴン・チョボスキー
出演/ジェイコブ・トレンブレイ、ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソン
全国公開中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。