6月にNetflixでリリースされた『セットアップ:ウソつきは恋のはじまり』。リチャード・リンクレーター監督作『エヴリバディ・ウォンツ・サム!!』(2016)で輝いていた、ゾーイ・ドゥイッチとグレン・パウエルが主演のラブコメとあって、すぐチェックはしていました。でも先日『セットアップ』で長編デビューした新人脚本家、ケイティ・シルバーマンのインタビューを読んでいたら、改めてワクワクしてきたのです。「もしかすると、ロムコム新時代が来るかも!」と。
ロムコムはロマンティック・コメディの略。80年代、90年代はハリウッドの夏の大作がロムコムだったりしたのに、最近はすっかり扱いが小さくなりました。昨年『ビッグ・シック』のヒットが話題になったのも、それだけ意外だったから。でもケイティ・シルバーマンが子どもの頃は『ユー・ガット・メール』(98)や『10日間で男を上手にフル方法』(2003)がみんなが期待するビッグ・ムービー。彼女自身のお気に入りはミシェル・ファイファーとジョージ・クルーニーが共演した『素晴らしき日』(96)だったそうです。
シルバーマンがそんな映画を好きだった理由は、女性キャラクターが恋に落ちるだけでなく、夢や仕事を持ち、生活していることが実感できたから。そう、「恋愛以外」のことがしっかり描かれているのは、面白いロムコムの鉄則です。『セットアップ』でも、ゾーイ演じるハーパーはスポーツ・ジャーナリストを目指していて、そこでぶつかる壁が最終的に物語を左右します。
ハーパーと、グレン・パウエル演じるチャーリーの仕事は、それぞれNYで活躍する上司のアシスタント。彼らの要求に応え多忙を極めるハーパーとチャーリーは、お互いのボスをくっつけることで自分の時間を作ろうとします。そのお膳立て(セットアップ)を錬るうち、二人の距離も近づく。さらに自分とは違う視点を持つことが、ハーパーとチャーリーにいろんな見直しを迫ることになるのです。
最近は『ビッグ・シック』のように男性主人公のロマンティック・コメディも増えてきました。このジャンルには当然、男女の役割の変化も影響するし、今後はジェンダーや人種の多様性も求められるはず。それでも、正統派ロムコムの系譜に連なるような映画やドラマがもっとたくさん見たい――という、ケイティ・シルバーマンの言葉に深く同意しました。ゾーイ・ドウィッチが2010年代のメグ・ライアンになったりしたら、最高。これからも引き続き、ロマンティック・コメディは観察していこうと思います。
Netflixオリジナル映画『セットアップ:ウソつきは恋のはじまり』
監督/クレア・スキャンロン
脚本/ケイティ・シルバーマン
出演/ゾーイ・ドゥイッチ、グレン・パウエル、ルーシー・リュー、テイ・ディグズ
Netflixにて独占配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。