2018.09.05

波乱万丈な人生に驚く! ドキュメンタリー映画『ペギー・グッゲンハイム』

©️Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada
©️Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada

NYのグッゲンハイム美術館を作ったソロモン・R・グッゲンハイムは伯父。父は彼女が子どもの頃、タイタニック号沈没で死去。その後グッゲンハイム家の基準からすると「それほど多くはない」遺産を受け取ったペギー・グッゲンハイムは、堅苦しいNY社交界を飛び出て1920年代のパリに渡り、前衛芸術に出会います。映画『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』は、新たに発見された彼女のインタビュー・テープを中心にしているので、何よりも本人の肉声でさまざまな出来事が語られているのが魅力。アートのコレクター、パトロネスとして20世紀美術の中心にいたことのダイナミズムが生き生きと伝わってきます。

ある女性の人生としても、多くの悲劇を経験しながらアートに情熱を傾け、何も恐れない豪快さがある。感心するのは、セックスや男性遍歴をあけっぴろげに話すところ。一時結婚していたマックス・エルンストについて「美男でいい体をしていた」と言ったり、ジャクソン・ポロックとは「一度だけ寝た」と明かしたり。もちろん財力があったからこそですが、きっと他人の目や評判なんてどうでもいい、と早くからわかっていたのでしょう。エキセントリックと呼ばれたのは、男性中心の世界でどこまでも自立していた証でもあります。

そこで彼女が培った美意識も大胆です。「今世紀の芸術」と名付けてNYに開いたギャラリーの斬新な展示方法。モビールで有名なアレキサンダー・カルダーが彼女のために作った美しいベッドヘッドも登場します。個人的には、ペギーの「過去に嫉妬はできない」という言葉が印象的でした。歳をとってからそう言い切れる人はなかなかいないはず。彼女のコレクションは現在、ヴェネツィアの邸宅美術館で展示され、庭にはペギーが愛犬とともに葬られているそうです。監督は『ダイアナ・ブリーランド 伝説のファッショニスタ』でもブリーランドの姿に迫った、リサ・インモルディーノ・ヴリーランド。


『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』
監督/リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
9月8日、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。