年末へ向け、華やかな大作がどんどん公開される時期になってきました。そんななかでもずっと頭から離れないのが、このささやかな幽霊の物語。いま流行りのホラーでもありません。でも、今年のマイ・ベストのひとつとなりそう。それが、ルーニー・マーラとケイシー・アフレックが若い夫婦を演じる『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』です。
まずは正方形に近いスタンダード・サイズの画面から、小さな箱、部屋のなかを見ている感覚が伝わります。というのもこれは男女と、二人が住む「家」の話でもあるから。そこでは親密な時間が流れ、ちょっとした衝突も起きます。ただ突然、ケイシー演じる夫が死んで、妻はひとり残されてしまう。それでも画面にはいつも夫がいて、じっと彼女を見つめています。ハロウィーンのコスチュームのような、目に穴が開いたシーツ姿の幽霊となって。
それはちょっと滑稽で、悲しい姿です。セリフもなく、「これ、ケイシーじゃなくてもいいんじゃない?」と思ったりもしますが、監督によると、追加撮影のとき以外はちゃんとケイシーがシーツを被って演じていたそうです。彼は妻が悲しみにくれ、やがてその家から引っ越していっても、何もできない。その後住む人や家が様変わりしていっても、強い思いが残る場所に幽霊として縛られたまま、長い時間が過ぎていきます。
映画の冒頭にはヴァージニア・ウルフの『幽霊屋敷』の詩的な一節が出てきます。私は大島弓子の漫画『四月怪談』を思い出しました。あれは100年前に死んだ少年=弦之丞と、いまの高校生=初子が心を通わせるストーリーでした。『ア・ゴースト・ストーリー』もやがて時間を超え、壮大なファンタジーへと広がっていきますが、最後にはやっぱり、男女の思いに帰結する。人の死後、その愛は消えてしまうのか、どこへ行くのか。歴史のなかではほんのひとときかもしれないけれど、自分はそのときそこにいて、確かに何かを感じた――そのことを大切にしようと思えるような、美しい一編です。
『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』
監督/デヴィッド・ロウリー
出演/ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ
11月17日、全国ロードショー
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。