このドラマの放映中、イギリスのテレビやラジオ、ネットではみんな話題にしていました。BBCで最高の視聴率を記録し、日本ではNetflixで配信中の政治サスペンス『ボディガード』。展開がスピーディで驚きだらけなので、「ええっ!」と人に話したくなるのが、見るとわかります。私は最初、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』でロブ・スタークを演じたリチャード・マッデンなのに興味を惹かれ、次にBBCがネットで公開した第一話の冒頭20分にすっかり引き込まれたクチ。これが本当に「つかみはバッチリ」な、手に汗握る20分なのです。
主人公の警官バッドは帰省の帰り、二人の子どもを連れて列車に乗っています。不審な人物を見かけ、爆破テロ計画に気づいた彼は、高速で走る列車の中で自爆犯のムスリムの女性を説得する。このシークエンスの緊迫感といったら! でも本筋はこの対応が評価され、バッドが内務大臣の警護役に抜擢されるところから始まります。人々の政治的思惑、テロへの感情、戦争のトラウマを絡めながら進むストーリー。ことにテロの描写のリアルさが、いまのヨーロッパの現状を映しだします。
もう一つ、『ボディガード』で「いまっぽいな」と思ったのが、女性キャラクターの存在。ここ10年ほど北欧ミステリやイギリスの犯罪ドラマでは女性キャラクターがどんどん進化していて、ただの「犠牲者」や「弱者」などありがちなステレオタイプを逆手にとる描写もあったりします。女性刑事や警官が出てきても、クリーンで真面目な役だけじゃない。男性と同じく女性もそれぞれに複雑で、それがとても新鮮に映ったりするのです。それは自分の中にも偏見があるから。私はデンマークのミステリ『特捜部Q』シリーズを一気読みしたときに、このジャンルで女性キャラクターを枠にはめていたことを強く意識させられました。
『ボディガード』でも現場の警官、警察の上司、バッドが守る大臣と、彼の周りに多数の女性が配されている。その設定が時折ストーリーに引っかかって、ミスリーディングを引き起こすところが挑戦的だと思います。そんなふうに作り手も受け手もステレオタイプから解放されようとしているところは、一見地味なヨーロッパの犯罪ドラマを私が見つづけている理由の大きな一つ。そうそう、妊娠中のキャリー・マリガンが刑事役のBBCドラマ『コラテラル -真実の行方-』もおすすめです。
Netflixオリジナルシリーズ『ボディガード -守るべきもの-』
クリエイター/ジェド・マーキュリオ
出演/リチャード・マッデン、キーリー・ホーズ
Netflixにて独占配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。