海外での評判はイマイチだったけれど、いまのジェシー・アイゼンバーグが見たくて、『ハミングバード・プロジェクト』試写に向かいました。ところが、ジェシーを喰っていたのがアレクサンダー・スカルスガルドの怪演。禿げて外見を変えたばかりか、変人で天才のキャラが真に迫っていて、しかも抜群にコミカルだったのです。
この人はどんなイケメン役もできるからこそ、イメージを効果的に裏切れるんですよね。最初にブレイクしたのはドラマ『トゥルーブラッド』(2008-2014)でのセクシーで邪悪なヴァンパイア役。『ミニー・ゲッツの秘密』(2015)では最低の男をリアルに演じていたし、前回取り上げたドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』シーズン1では、パーフェクトな夫の裏の顔が恐ろしかった。でも、ここまで「イケメンじゃない」役は初めてかも。
物語は金融市場の「高頻度取引」で大儲けするため、アメリカを直線で貫通する光ケーブルを建設する男たちを描いています。取引が速ければ速いほど、巨額の金が儲けられる。その仕掛けを作るため、ジェシー・アイゼンバーグが実務で無理を通し、一方アレクサンダー・スカルスガルドは0.001秒を短縮するアルゴリズムを開発します。抽象的な概念と、泥まみれで苦戦する現場の対比が面白い。
アレクサンダー演じる天才は、社交スキルがなかったりするところは典型的。でもふと交わした会話から、それまで自分のなかになかった「倫理観」に目覚めたりする瞬間が印象的でした。作業に煮詰まってバスローブ姿でテニスを始める、ドタバタ場面も笑える(個人的に、バスローブにはこだわりがあります)。ジェシーとアレクサンダー、それに二人の元ボスを演じるサルマ・ハエック――この三人のハッタリが効いた演技だけで、私はめちゃくちゃ楽しめました。
『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』
監督・脚本/キム・グエン
出演/ジェシー・アイゼンバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、サルマ・ハエック
9 月 27 日、TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。