3時間25分のドキュメンタリー。そう聞くと及び腰になるかもしれませんが、フレデリック・ワイズマン監督の新作、と聞いてものすごく楽しみにしている人もいるはず。現在89歳のドキュメントの名手による『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』は、図書館のさまざまな側面を淡々と映しつつ、刺激的でエデュケーショナルで、いまの社会における「情報」や「知識」を考えるきっかけをたくさん与えてくれます。しかもそれがNYに暮らし、働く人たちの表情や言葉で見られるのが楽しくて、あっという間に時間が過ぎていくのです。
五番街にある本館には、壮大なボザール様式建築やライオン像を訪ねる観光客や、有名人による講演やトークなど、メトロポリタンの華やかな面がある。でも、「ニューヨーク公共図書館」とは、研究図書館や地域に根ざした近所の図書館など、92の図書館のネットワークのこと。そこで行われている活動が本当に多様で、アイデアに満ちているのです。会議で交わされる時相についての熱い議論。就職のためのプログラムや子どもたちの教育プログラム。エルヴィス・コステロやパティ・スミス、タナハシ・コーツら豪華な面々によるトーク。音楽演奏会やダンス教室。ガルシア・マルケスを読むブッククラブ、デューラーの絵の鑑賞会……もう、挙げていったらきりがありません。
そして、その一つひとつの場面に笑いや発見、「パブリック=公共」の場への信頼が宿っているのです。そこは本を読んだり調べたりするだけじゃなく、情報を交換し、人や社会を進化させる起点になる場所。コミュニケーションの場。使い方次第で可能性が広がる、オープンな場所。私は集まってくる人々の「語り」にも引き込まれました。たぶん、「言いたいことを人前で魅力的に話す」というのはいまどんどん必要になってきているスキル。そしてこの映画で話す人たちはみんな個性的で、面白い。きっと「知識をシェアしよう」という情熱がそうさせているのだと思います。贅沢な3時間25分、楽しんでください。
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
監督・録音・編集・製作/フレデリック・ワイズマン
5月18日より、岩波ホールほか全国順次ロードショー
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。